テラーノベル
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山間部からの侵攻を果たしたモンゴリア軍は、街道を南へと進んでいた。
その先にあるのは、王領カルデル城。
王領を守るこの城では、代官ロドリゲスと城代ドーン・セルゴが、
敵軍の動向について話し合っていた。
「僕の計算では、あと十日ほどでこの地にやってきます」
地図を見下ろしながら、ロドリゲスが言った。
「そうか」
ドーンは短く答えた。
十日。
長いようでいて、決して十分な時間ではない。
城の防備を固め、兵を配置し、糧食を確保する。
やるべきことはいくらでもあった。
「その前に――」
ドーンがふと顔を上げた。
「ん?」
「やってきたようですよ。我らが軍師が」
ロドリゲスが振り返る。
城門の方から、数人の兵を従えた一団が近づいてくるのが見えた。
その先頭にいるのは、サイラス。
そして、その傍らにはユンナの姿があった。
「いよいよですね」
ロドリゲスが呟いた。
サイラスは二人の前まで来ると、軽く頭を下げた。
「お待たせしました」
「いや、構いません。まだ十日ほどありますよ」
ロドリゲスの言葉に、サイラスはわずかに表情を変えた。
「敵は、チャイ王朝から調達した最新式の攻城兵器を携えて、
この地にやってくるようです」
「攻城戦になるでしょう」
「バトウ軍は、ヴァンガルドで十三の城塞都市を落としました」
サイラスは城の向こうに広がる山並みへと目を向けた。
「軍師に見てもらいたいものがあります」
ロドリゲスはそう言うと、サイラスを城壁へと案内した。
「これは……」
サイラスは、目の前の兵器を見つめた。
「古代兵器ですかね。バリスタです」
「連射できるように改良しました」
ロドリゲスが説明する。
「北面に沿って、五台を配置しています。
百メートル以内なら、木製兵器を射抜くことができます」
「長弓と組み合わせれば……」
サイラスは城壁の向こうに目を向けた。
「百メートルの距離に、矢の雨を降らせることができるな」
そう呟くと、彼は何かを組み立てるように思考を巡らせ始めた。
「我が国にとって、忌まわしきカイル戦争だったが……」
葉音/ペア画中
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#異世界転生
上野文
8,960
サイラスは、静かに言った。
「彼らが導入した国民皆兵は、
この戦争で重要な役割を果たすことになるかもしれない」
そして、遠くの山並みを見据えた。
「エウロピアにとって、モンゴリア軍の来襲は未知の脅威だった」
一瞬、言葉を切る。
「だが……彼らから見ても、我々は異質な軍なのだろうな」
かつて、この地でアダム・ゼイオンが巻き起こした革命の嵐は、
やがてエウロピア全土を巻き込む戦争へと発展した。
その戦乱のさなか、風雲児カイル・ゼイオンは、
国民皆兵と、そこから生まれた軍団制を武器に、
一時はエウロピア全土を支配下に収めた。
その原動力となったのは、
国民一人ひとりが国家を守るという思想だった。
そして、その思想は今もなお、
この国の精神的支柱として受け継がれている。
サイラスは城壁から、眼下を見下ろした。
槍を担いだ一団が、城門をくぐって入城してくる。
その後ろにも、次々と兵士たちの姿が続いていた。
「南方から動員された兵でしょう」
傍らの将が言った。
「最終的には、この地だけで二万を超える見込みです」
「数だけなら、敵軍を上回れます」
サイラスは、黙って兵士たちを見つめていた。
二万の兵。
その数は、確かに大きな力となる。
だが、数が多いだけで勝てるほど、戦争は単純ではない。
相手は、幾多の国を征服してきたモンゴリア軍なのだ。
この兵たちを、いかにして戦力へと変えるか。
そして――
いかにして、あのモンゴリア軍を打ち破るか。
サイラスは、思考を巡らせ始めた。
「そろそろ、カルデル城に着く頃ですかな」
バトウの天幕で、スブタイが呟いた。
次々と届けられる報告。
そのたびに、バトウと副官たちは盤上に駒を置き、軍の進路を確認していた。
スブタイは、その様子を眺めながら口を開いた。
「意外にも、敵兵が多いですな」
「寄せ集めの烏合の衆ではないのか?」
バトウが尋ねる。
「この国は、農民兵が多いようで」
「我らが来るまでは、それでよかったのであろうな」
バトウは、さして気に留める様子もなく言った。
三つに分かれたモンゴリア軍は、大規模な抵抗を受けることもなく進軍を続けていた。
そして今、三軍は再び合流しようとしている。
目指すは、第一の攻略目標――カルデル城。
スブタイは盤上の駒を見つめた。
敵兵の数は、予想を上回っている。
だが、それだけで戦況が変わるとは思えなかった。
スブタイは盤上の駒を見つめた。
それでも――
胸の奥に、わずかな引っかかりが残っていた。
だが、それがどれほどの脅威となるのか。
その答えは、カルデル城で明らかになるはずだった。
「敵将スブタイの戦い方は、かつての敵、ククス・ゼイオンに似ている」
サイラスは、ロドリゲスとドーンに話しかけた。
「いや……」
そこで、ふと思い直す。
「ジンギス・カーンに似ていると言うべきだろうか」
「ジンギス・カーンに、ですか?」
ドーンが聞き返した。
「敵を調べ、あらゆる工作を仕掛け、軍を手足のように操る。そういう戦い方だ」
サイラスは盤上の地図に目を落とした。
「恐ろしい敵なんですね」
ロドリゲスが呟く。
「実際、いくつもの国が滅ぼされている」
サイラスは静かに答えた。
(だが……何か弱点はないのだろうか)
そう考えたまま、彼は黙り込んだ。
しばらくして、別の疑問が頭をよぎる。
(ところで……)
(ゼイオンは、二十年前にジンギス・カーンを知っていたのだろうか)
コメント
1件
第40話、めっちゃ重厚でした…!革命の遺産っていうタイトル、国民皆兵が今の戦いで息づいてる感じがすごく響きました。サイラスが「我々は異質な軍」って言う視点、歴史の逆転感が胸熱です。スブタイの胸に残った“引っかかり”も気になる…この駆け引きの緻密さ、大好きです🔥