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ちゃ
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第5話▶︎鼓動 顔 この声 全部 / side柔太郎
ぐちゃぐちゃな告白だったのに、あの日を境に、俺たちはちゃんと“そういう関係”になった。
たわいのないLINEが、毎日の一部になっていく。
何度も一緒にご飯に行って、その度に、帰り道が名残惜しくなっていった。
やがて、 インドアな俺たちは、自然と佐野先輩が一人暮らしをしている家に入り浸るようになった。
映画を流しても、途中から内容なんてどうでもよくなって、気づけばただ隣でだべってるだけだったりした。
「佐野飯」って呼んでる手料理を2人で食べるのも日課になった。 この前は俺も料理を手伝ったら、オムライスが謎の物体になって、二人で腹を抱えて笑った。
——こういう時間が、ずっと続けばいいのにって、思った。
でも。
楽しい時間ほど、終わるのが早い。
「そろそろ帰るね」
名残惜しさを誤魔化すみたいに立ち上がると、
「おくってく」
先輩も当たり前みたいに立ち上がって、上着に手を伸ばす。
「いいよ、ひとりで帰れるから」
本当は、もう少し一緒にいたいくせに、素直になれない。
「よくないよ!」
食い気味に返されて、思わず吹き出す。
「ふふふっ…なにそれ」
「なにそれじゃない」
ちょっとムキになってる顔が、やっぱり優しくて。
——ああ、好きだなって思う。
外に出ると、夜の空気がひんやりしていた。
並んで歩く距離が、家の中より少しだけ遠くなるのが、もどかしい。
触れそうで触れないその距離を、やけに意識してしまう。
「…俺、はやちゃん好き」
ぽつりと落とした言葉は、思ったよりも静かに夜に溶けた。
“はやちゃん”って呼ぶのも、まだ少し照れる。
「ありがと、俺も」
間髪入れず返ってくるその言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。
よかった、って思う。
ちゃんと好きでいてくれてるんだって、何度でも確認したくなる。
「えっ、ありがとう…ほんとに」
「むしろ、柔太郎は知らなかった?俺が好きなの」
「ううん、知ってた」
そう言いながら、先輩の耳が赤いことに気づく。
——あ、照れてる。
それだけで、どうしようもなく嬉しくなる。
先輩は視線を落として、少し迷うみたいにしてから、俺の手を握った。
遠慮がちなのに、ちゃんと離さない力。
「付き合ってるしな」
照れ隠しみたいなその一言に、胸がぎゅっとなる。
絡めた指が、思ったよりも自然に馴染んでいく。
ずっと前からこうしてたみたいに。
夢の中だけだった距離が、今は現実で。
息の音まで聞こえそうなくらい近くて。
——どうしようもなく、触れたくなる。
少しだけ背伸びをして
目を閉じて
先輩の頬に、そっと唇を触れさせた。
その瞬間、
「おっ、おまえさぁ〜〜〜〜!ここ!外!!」
先輩は勢いよくしゃがみこんで、頭を抱えた。
大きな体が小さく丸まるのが、なんだかおかしくて。
「やりすぎた?」
笑いを堪えながら覗き込むと、耳どころか首まで真っ赤で。
でも、口元はしっかり笑ってる。
——あ、これ嫌じゃないやつだ。
「大好きだよ」
うずくまったままの先輩に、もう一度、少しだけ近づいて囁いた。
今度は、ちゃんと聞こえるように。