TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

Wrath 4


一本のロウソクに照らされた一枚の絵画を観て、ヘレンは口に手を当て驚きを隠せられずにいた。

その絵画には、モートに似ている。いや、そっくりな男が笑いながら畑仕事をしているところが描かれていた。

底冷えする廊下の奥の壁に、中央に飾られたその絵画には、やはり農道と白い月がモートとそっくりな男の背後にあった。ジョン・ムーアの屋敷の大部屋から玄関へとオーゼムと共に向かう途中のことだった。隣のオーゼムは、この絵画を観て、ただ頷いているだけだったが……。

「そうですよ。ヘレンさん。この人はモート君です」

「え? オーゼムさん? どういう意味ですか?」

ヘレンは前にノブレス・オブリージュ美術館で、モートが産まれた絵画と似た絵画をモート自身に探させたことがあったが。けれども、そういえばその件は一枚見つかった後から、うやむやになってしまっていた。

ヘレン自身は、モートの出生の秘密は、これらの絵画にあると確信していた。

それに更に確信が深まることに、オーゼムはさも当たり前といった感じで頷いていた。まるで、モートの過去を全て知っているかのようにヘレンには思えた。

「詳しいお話をしましょう。まずは、その絵を持ってノブレス・オブリージュ美術館へと行きましょう」

オーゼムはその一枚の絵画を持ち出して階段を降り、玄関へと向かった。


もうそろそろイーストタウンだった。西の方から曇り空を茜色に染める太陽が登って来ていた。モートは更に急いだ。ここからでも、銃撃戦の激しい発砲音がしたからだ。

針葉樹で囲まれたロイヤルスター・ブレックファーストの本拠地であるパン屋が見えて来た。モートはパン屋の店内へと、あらゆるものを通り抜けてすぐさま飛び込んだ。ショーウインドー越しからも見えていた。

ロイヤルスター・ブレックファーストの雇ったであろう大人の用心棒たちと、猿の軍勢との戦いの真っ只中だったのだ。猿の軍勢は血潮を巻き上げ、剣を振り回し、白く凍った地面には用心棒と猿の血が帯びたたしく広がっていた。

モートは階下の全ての猿の首を一瞬で狩った。

「頭部ではなくて! 胸を撃ってくれないか! フルプレートメイルは確かに頑丈だが! いずれは穴が空くから!」

モートはそう叫ぶと、売り物のパンやガラスの破片が散乱する床に倒れている用心棒や猿を通り抜け二階へと疾走した。

「モートが助けに来てくれたわ! 大丈夫! みんなモートは味方よ!」

ミリーがモートが廊下の猿の一匹を狩ると同時に叫んだ。

一瞬、用心棒たちが戸惑い撃つのをを止めた。

シンクレアはパン粉の大袋でバリケードを張った廊下の片隅で蹲っていた。血塗れのモートを見て、青い顔をこの上なく青くして震え上がった。けれども、恐らくミリーとロイヤルスター・ブレックファーストの組織の子供たちが辛抱強くシンクレアとその家族を説得してくれていたのだろう。

シンクレアは寄り添う家族と共に気を失う一歩手前だったが気丈に叫ぶ。

「モート! 奥の部屋の窓から猿が入って来るわ!」

ガシャンと割れる音と共に、猿数匹が幾つかの窓から襲いかかってきた。二階の用心棒が雄々しくトンプソンマシンガンを撃つが、モートの方が速かった。銀の大鎌で窓から現れた猿の首は再び窓の外へと吹っ飛んだ。

そして、モートは地を蹴って猿の胸部へと刈り込む。

そのままモートは猿の軍団の集った庭へと飛び込んだ。

用心棒やシンクレアたちが唖然としている中。

あっという間に猿の軍勢は全滅していた。

「モート! ありがとう! すっごい強いのね!」

ミリーが嬉し泣きの涙でクシャクシャな顔をして、モートの血塗られた腕にしがみついた。モートは全身が血で染まっている状態だったが、ニッコリ微笑んでやった。

まるで、バケツに入った血液を頭からかぶったかのような姿だった。

「もう、大丈夫だ……」

シンクレアはパン粉の入った大袋を苦労してどけると、モートの傍まで真っ青な顔で走って来た。

「モート? 今のはなんだったの? ねえ、私たちを助けてくれたのよね? 凄い速さでよくわからなかったけど……」

「いや……あ……もう、行かないと……」

「あ……本当にありがとね!」

涙声でお礼を言うミリーとシンクレア。そして、その家族にモートは人に感謝されても何も感じなかったので、震えるシンクレアには、手を振っただけだった。モートは遠いノブレス・オブリージュ美術館の方へと向きを変えると、そのまま走り去った。

…………

モートはノブレス・オブリージュ美術館へと帰ってくると正門から中へ入った。昼間なのに美術館はガランとしていた。受付の女性や使用人たちがモートの血塗れの姿を見て、気を失ったが。モートは気にせずに美術館の奥のヘレンの部屋へと向かい。シャワー室を借りた。いつものカジュアルな服に着替えると、モートが産まれた絵画のある広大なサロンへ入ると、アリスとヘレン。そしてオーゼムが集まっていた。

「やあ、みんな無事で良かったね」

モートは疲れを感じないので、いつもの質素な椅子に座った。

30個の東洋の壺に13枚の美しい絵画を、アリスもオーゼムもしばらくは、その豪奢な美術品の数々を見て、それぞれ溜息を吐いていたが。俯き加減のヘレンがモートの傍に寄って来た。

ヘレンが真っ青な顔で一枚の絵画をモートの面前に見せて囁いた。

「モート……この絵がわかる? オーゼムさんに聞いたわ……私はあなたにとって重大な事実を知ったのよ……ああ……モート……」

「……え? ヘレン? 一体? 何なんだ?」

ヘレンは泣き崩れた。

ヘレンの持つその絵はジョン・ムーアの屋敷にあった絵だった。

少し経って、オーゼムがモートが産まれた絵画のところへ深刻な顔で、モートを手招きした。モートは絵のことがさっぱりわからなかったが。

何故、自分のそっくりな絵をオーゼムとヘレンはぼくに見せたがるのだろう?

けれども、モートは空っぽの心のような容器が不思議な感じでいっぱいになった。

夜を狩るもの 終末のディストピア

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

2

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚