「ふぅ、終わりーー!」
あれから超高速で仕事をこなしていき、今 一旦やるべき事が終わった所だった。
私はランチタイムの間に、一人で行きたいお店があった。
昨日スマホで店を探していると、口コミ評価が凄く高く、かつオフィス近くにある最高の場所を見つけたのだ。
そこは魚料理のお店で、最近和食が食べれていなかったから丁度良いと思っていた。
「(そろそろ出発するかな。)」
その店は人気店だから、店の前にはいつも長い行列が出来ているらしい。
今日は比較的空いていそうだけど、早めに行っておかないと心配だし。
――私が働いている階は5階。あいにく今エレベーターが故障しているから、階段で降りるしか無かった。
「(楽しみだなぁ、何食べようか?)」
メニューを見ていると、煮付けや焼き魚定食など、画面越しで見ても新鮮さが分かる料理が並んでいた。
さて、今日は何を頼もうか?どうせなら、あまり食べたことが無い料理とか…?
そんな事をボーッと考えていると、急に体に強い衝撃を感じた__!!
「うわっ! ごめんなさいっ!」
私は思わず目を閉じてしまったから、誰とぶつかったかも分からずに謝罪した。
____相手、怪我してないかな…? 怪我してるなら何かしなきゃ……!
そう思って前を見ると、思わず『ゲッ』と声を漏らしてしまった。
「…あ………!」
「丸井さん…っ」
そう、ぶつかったのはあの**“丸井さん”**だったのだ。
階段を急いで上がってきた丸井さんと、正面から激突してしまったらしい。
幸いお互いに怪我は無かったけど、丸井さんのおでこは少し赤くなっていた。
「丸井さん、大丈夫ですか!?おでこ、赤くなってますよ?」
「えっ、いや、大した事ないですよ!こちらこそごめんなさい…」
「いえ…!(やっぱり子供っぽい…)」
丸井さんの反応、さっき感じたのと同じだ。
子供っぽい。
普通の人なら「子供っぽい人だな」としか思わないけど、丸井さんだからだろうか。
何故か「可愛い」とまで思えてきてしまった。
「(って、ダメダメ!変な妄想はよして…!!)」
「あの…、花松さん、どこへ行こうとして… されてたんですか?」
私が変な妄想をして黙り込んでいると、そうして彼が話しかけてきた。
「えっと… ちょっとお昼に、出かけようと――…」
「そうなんですね!僕も今から行こうとしてたんです!」
「え、?」
丸井さん、階段上がってきてるのに……
お昼に行くなら下に行くんじゃ…
「丸井さん、なんで階段上がってきてるんです?」
「あー、ちょっと上司から 書類等を取りに行くように頼まれてまして…!」
「あ、そうなんですか。じゃあ尚更、ぶつかっちゃってすみません…」
きっと急いでたからぶつかったんだろうし、話してる暇は無いだろうに…
「いえ、全然急ぎじゃないんで!こちらこそ申し訳ない…」
「そんな事無いですよ!それより、早く行ったほうが…」
「はい、そうします。 ……… あの、一つ提案して良いですか?」
「提案…?」
「はい。」
何だか真剣な目をしてるな…… どうしたんだろう?
いつも明るい雰囲気の丸井さんが、急に真面目な人に見えてきた。
表情で人は変わるもんだなぁ…
――いやそれより、提案って何だろう?仕事のことかな。
「あのぉ…、これから昼食をご一緒させてもらっても良いですか…?」
「え!(まさかの、ランチの提案!?)」
まだ親しくもなっていないのに、昼食を一緒に食べるとか……
――いつもの私なら、誘いはきっぱり断っていただろう。
だけど、今回は二つ返事でOKしてしまった。
「本当ですか!嬉しいなぁ!ありがとうございます!!」
「私も一人だったし、誰かと居るほうが楽しいですから!」
「じゃあ、今すぐ取りに行ってきますね!」
「はい、それでは下で待っときますねーー!」
「よろしくお願いします。」
――今日も、いつも通りリラックスしたいなと思ってたけど…
たまには、こんな日があっても良いか!
いつもの自分なら有り得ない事が起きている事に、私は少しモヤモヤしてしまった―――