テラーノベル
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その日は、夕方から雨が降っていた。 相談室の窓ガラスを、雨粒がゆっくりと滑り落ちていく。
部屋の中には、しんとした静けさがあった。
「……誰かに頼るのが、怖いんです」
小さく絞り出すような声だった。
「前に、人に相談して裏切られたことがあって。
それ以来、もう誰にも話したくなくなったんです。
迷惑かけるのも嫌で……結局、全部一人で抱えこんでしまう」
蓮司は、机の端に肘をついて、じっとその言葉を聞いていた。
反応を急がない。沈黙のまま、雨の音を数秒ほど数えてから、口を開いた。
「……まあ、そりゃ怖ぇよな」
低く、気取らない声だった。
「裏切られたことがあると、もう次は信じられなくなる。
“また同じことが起きるかも”って思うと、
頼るより、一人で潰れたほうがマシに感じる。……わかる」
彼は缶コーヒーを指で軽く弾き、続けた。
「けどさ、“一人で抱える”ってのも、立派な頼り方のひとつだと思うんだよ」
その言葉に、生徒が少し顔を上げた。
蓮司は、淡々とした調子のまま続ける。
「自分の中で整理して、何とか立ち上がろうとする。
それは、それでちゃんと強さだ。
ただな――強さってのは、ずっと出しっぱなしにしてたら壊れるんだよ」
彼は天井を見上げるようにして言葉を探した。
「誰かに頼るってのは、弱さの証明じゃなくて、“回復の手段”だ。
全部預けなくていい。
少しだけ肩を貸してもらうくらいでいいんだよ。
それでも、ずいぶん変わる」
「……でも、また裏切られたら?」
蓮司は小さく息を吐いて、笑った。
「そのときは、ちゃんと怒れ。悲しめ。
我慢して笑うな。裏切りってのは、“お前が信じた証拠”だ。
それができるだけでも、人としては相当すごいことだよ」
外の雨音が強くなった。
彼はその音を聞きながら、最後に少し声を和らげた。
「頼れない自分を責めんな。
それでもちゃんと生きてる時点で、もう十分戦ってる。
そのうち、“頼っても平気かも”って思える日がくる。
そのとき、誰かがそばにいたら、それでいい」
蓮司はペンを回して、ぼそりと締めくくった。
「……人を信じるのは怖ぇけど、誰かがそれを受け止める番も、いつかお前に来る。
だから今は、無理に強くならなくていい」
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