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「どうぞ」
「お………お邪魔しま……す……」
純に中へ入るように促された恵菜は、おずおずと部屋の中へ入っていく。
彼が、まっすぐに寝室へ向かうと、彼女は洗面所で手洗いとうがいを済ませた。
寝室に入ったきり、純はまだ出てこない。
このままリビングに入っていいものか、と迷った恵菜は、ドアの前で佇んでいると、部屋から彼が出てきた。
「中に入って待っていれば良かったのに。とりあえず、ソファーに座って」
目を細めながら純はドアを開けると、キッチンへ向かい、コンビニエンスストアで購入したものを冷蔵庫にしまう。
「俺も手洗いとうがいをしてくるから、ちょっと待ってて」
「はい」
ソファーに腰を下ろしながら、恵菜は純が戻ってくるのを待つけど、気持ちが宙に浮いてしまい、落ち着かない。
(…………時間がゆっくり進んでいるように感じるのは、気のせい……?)
恵菜は、むず痒い気持ちを抑えながら、ガラス戸に映る漆黒の空を眺めていた。
ガチャリとドアが開き、純が恵菜の横に腰を下ろす。
スーツのままで彼女のそばにいる彼に、心臓が忙しなく弾んでいた。
「純さん…………着替え……済ませてなかったんですね」
恵菜がおずおずと、ネクタイのブレイド部分に触れる。
「この前、恵菜がメッセージで『スーツ姿、見たかった』って送ってくれたただろ?」
「覚えていてくれたんですね……!」
数日ほど前に送信したメッセージの内容を、覚えていてくれた事が、恵菜は嬉しい。
「前も聞いたけど、スーツを着てる俺…………どう?」
「かっ…………カッコいい……です」
本人を目の前にして『カッコいい』と呟いている事に、彼女は照れてしまい、俯きながら顔が熱ってしまう。
「恵菜…………可愛い」
華奢な肩に腕を回され、純に引き寄せられると、フワリと抱きしめられた。
リビングに静寂な空気が漂い、彼の腕の中に閉じ込められたまま、二人は言葉を交わさずに、互いの体温を感じ取っている。
凛とした雰囲気の中、彼女の鼓動はトクトクと忙しない。
「やっと…………恵菜と…………正式に恋人同士になれた……」
純が背中に回していた腕を解き、恵菜の顎に指先を添えて上を向かせると、焦らしながら唇を重ねられた。