「――よく聞け!我が戦友たちよ!!」
アイの声が、反響する。
その鋭い瞳と強き立ち姿に、10番隊の騎士たち、そしてその場にいたすべての獣人たちの視線が引き寄せられていた。
「女王は、我々の提案を拒否した!」
「我々が求めたのは、ただひとつ!」
「――人間の手が加えられた魔法を使うな!」
その言葉に、場がざわめく。
誰もが、心のどこかで同じことを思っていたから。
「……我が命の恩人、元・10番隊隊長――キング様は、私を庇い、奴隷となった……」
アイは、目を閉じ、胸に手を当てる。
「彼は、あの立派なたてがみと、たくましい筋肉で……どこかの女貴族に買われ、
今ごろどこかで――“飼われて”いるに違いない!!」
目を潤ませながら叫ぶその姿に、幹部たちは目を伏せ、
一般の騎士たちは怒りを震わせていた。
「アバレーの騎士なら、知っているはずだ!キング様は優しく、強く、カリスマに満ちていた!」
「だが――優しすぎた!!」
「人間共は卑劣にも、赤髪の獣人の少女を人質にとり――
キング様を殴り、魔法で攻撃し、徐々に力を奪っていった!」
「そして……!」
「最後には、自らを奴隷とすることで、私を――逃がしたんだ!!」
「――こんな理不尽が、あっていいはずがない!!」
「許せない!!!」
「人間は悪だ!!」
「人間は滅びるべきだ!!」
叫びが、怒号が、剣を抜く音が――空間を支配した。
その場にいた誰もが、己の心に同じ“怒り”を持っていたのだろう。
アイは、ゆっくりと目を開け、言い放つ。
「――これより、我らは人間を許さない独立国家を作る!!」
「最初は小さな火でも構わない。だが、いずれその炎は世界を覆う!!」
「そして、いつか必ず――この世から“人間”を絶滅させる!!」
「私についてくる者は、今すぐこの国を捨てよ!!」
「来るべきその日のために、準備を整えるのだ!!」
「「「おおおおおおおおおおおお!!!!!」」」
その号令と共に、アイの背後に展開された――
転移魔法陣が、咆哮するように光を放つ。
数百の黒き影が、ひとつ、またひとつと消えていった。
――その直後。
1番隊を率いた女王が現場に到着した時、
そこに残されていたのは――
破壊された【最終生命破壊砲】の、無残な残骸だけだった。
アイは――知らない。
その“キング”と呼ばれた獣人が、
自分を庇い、奴隷となり、そして――
その後、恋に落ちた相手が誰だったのか。
そして。
その恋した相手――“アオイ”に、
手を添えられ、ボタンを押されて。
奈落の底で、奴隷たちの死体の山に加えられたことを――
アイは――知らない。
それでも、彼女は信じていた。
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