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※遥の自己認識の構築。
① 幼少期からの刷り込み(家庭・兄弟・教師)
「“普通の”子になってくれたら良かったのに」
「なんでお前だけこんな顔してるの?」
「男のくせに声が女みたい」
「泣き顔が気持ち悪い」
教師からも「お前には“そういう”雰囲気があるな」とあからさまな拒絶。
→ 遥は、自分の身体的特徴・表情・反応・喋り方が“異物”であるという感覚を持ち始める。
② 学校での「認識の強化」=制度的同調圧力
男子からは「気持ち悪い」と嗤われ、女子からは「関わると変なのがうつる」と避けられる。
「見るだけで気分悪い」
「空気読めない」
「しゃべるな」
女子からの「わざとやってるんでしょ?」「モテたいんでしょ? きしょいよ」
→ 他人の嫌悪が「自分の存在そのもの」に向いていると感じる。「生理的嫌悪」を突き付けられ続けることで、自己否定が“確信”に変わる。
③ 「優しくしようとすること」が逆に罠になる
誰かに優しくすると、それが「媚び」と捉えられる。
自分の“良さ”を出すほど、余計に気持ち悪がられる。
「お前さ、いっそ性格悪くなってくれた方がマシなんだけど」と言われる。
→ 「良くなろうとする自分」が「気持ち悪さの増幅」に直結すると学習してしまう。
④ 被害者なのに、なぜか「加害者」のように扱われる
被害を訴えると「お前にも原因があるんじゃない?」という言葉。
「お前がクラスの雰囲気壊してんだよ」と集団で言われる。
自分が孤立することで“クラスの秩序が保たれている”とさえ感じてしまう。
→「いじめられる自分」が「秩序のために必要な犠牲」と感じてしまう。
風が強い午後。誰もいないはずの屋上に呼び出された遥。
ドアを閉めた音が、妙に重く響いた。
「お前さ、なんでそんな顔してんの?」
陽キャ女子のひとりが、にやりと笑って近づく。
「なんでって……」
「言い訳すんなよ。ねえ、こいつ、自分のことまだ“普通”だと思ってるのかな? ありえなくない?」
笑い声が混じる。
「鏡見たことある? 喋ってる顔、マジで寒気する。泣きそうな顔してんの、わざと?」
「声もさ、裏返ってるし。女狙ってんの?」
遥は何も言い返せない。ただ、膝が勝手に震えた。
「じゃあ、脱いでみ? ほら、上だけでいいから。見せてよ。どんな身体してんのか。“気持ち悪い”の、証明してみて?」
空気が歪む。笑い声の中、遥は目を閉じる。
「……なんで……」
「は? 何?」
「なんで、こんなに……生きてるだけで……嫌われなきゃいけねぇんだよ」
ふいに出た声は、震えていた。情けなくて、みっともなくて、それでも止められなかった。
「……俺、何かしたか……?」
「したじゃん。“生きてる”っていう、最大のやつ」
笑いが突き刺さる。
遥は、怒れない。
反論もできない。
“自分が正しい”という確信を、一度も持てたことがないから。
いつも、悪いのは自分だと思ってきた。
義母に叩かれたときも。
先生に無視されたときも。
兄たちに「こっち見んな」と蹴られたときも。
それは、いつしか習性になった。
──自分が気持ち悪い。だから、嫌われるのは当然だ。
でも。
この日、この屋上で、遥はふいに思った。
「じゃあ、どうすればよかったんだよ」
その言葉が心のどこかで、音を立てて砕けた。