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「いい加減にして下さいっ!!」
普段、滅多に大きな声を上げない恵菜が、三人に向かって、自分でも驚くほどの声を張り上げた。
「さっきから…………黙って聞いていれば……」
背筋が凍りそうな恵菜の低音の声色に、勇人と彼の母、さらには理穂も口を閉ざし、息を呑む。
「私をブタ呼ばわりして、母親がいないと何もできない男と、誰が寄りを戻したいと思うの!? 早瀬と復縁なんかするワケないでしょ!? もう懲りごりだから!!」
勇人を睨みつけながら恵菜が言い捨てると、彼女の言葉に、不倫相手の理穂が睫毛をバサバサさせて目を見開いた。
高校時代からずっと想い続けてきた男が、実はマザコンだというのを気付いたのかもしれない。
「今は痩せたから、早瀬の嫁に相応しい? 私は結婚していた時、あなた方の言動に散々苦しめられて、最終的に、食事も満足に摂れなくなった! 私の実家の前で数回も早瀬を張らせて、ストーカーまがいの事をさせる姑なんて、ありえない!!」
勇人から良子に視線を這わせ、キツい口調で言い放つと、またも理穂が驚きながら固まっている。
「うっ…………うそ……! 恵菜センパイの家の前で……勇人センパイが……」
勇人が恵菜を待ち伏せしていた事。
いつか二人で会った時、理穂はチラッと恵菜から聞きかじっていたけど、まさか彼女の実家で待ち伏せしていたとは、思わなかったようだ。
声が掠れ、震わせている後輩に、恵菜は狙いを定める。
「あなたみたいな外見重視の女には、早瀬家の人間として相応しいと思う。ほら私、一回ブタになってるでしょ? ブタになったお陰で、早瀬家の本性が見えた。あなたが早瀬の妻になればいいと思うよ。早瀬と汐田さん、似たもの同士で、お似合いのカップルだし」
「っ……!」
「大丈夫。私、もう二度と早瀬の人間と、あなたには会わないから安心して?」
恵菜は態とらしく、理穂に嫌味なほどニッコリと笑うと、理穂はグシャッと面差しを崩した。
「何度も言いますが、私は復縁する気なんて全くありません。仮に復縁しても、同じ過ちの繰り返しになるのが目に見えているので、復縁してくれ、と言われたり、実家の前で待ち伏せされるのは、迷惑極まりないです。離婚後の私の人生を邪魔しないで下さいっ……!」
感情を抑えながら、恵菜は淡々と言葉を紡ぎ出すが、早瀬家の人間は、どうやら相当諦めが悪いようだ。
「恵菜! 考え直してくれ! 今度こそ、お前を大事にするからっ!! なっ!?」
「恵菜さん! 息子はこんなにも、あなたの事を想ってくれているのよ!? あなたの事をここまで想ってくれる人、他にいないでしょ!?」
「ちょっ……やっ…………きっ……気持ち悪いっ! やめて下さいっ!!」
早瀬親子が恵菜に詰め寄り、彼女の腕を掴んだ、その時。
「…………だったらなぜ…………結婚していた頃に、彼女をもっと大切にしなかったんですか?」
背後から聞き覚えのある淡々とした声に、恵菜は弾かれたように振り返った。