テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#宵闇怪奇譚
桜城
588
ほっかい広産🧂
133
コメント
1件
いやあ、第33話「国の底力」、一気に持っていかれました…!「ロストウィルム」という蔑称をあえて国名に据える二人の王の決断、痺れましたね。敗北を認めて、そこから這い上がる物語の構図がもう、設定好きとしてはたまらなかったです。忍が各国に技術を学びに行き、侍が魔法剣士に進化する…世界の成り立ちがちゃんと歴史として積み上がっていく感じが素晴らしい。そしてあの静寂の戦場の描写、空気がピンと張りつめてて、続きが気になります!
戦いは、三日三晩続いた。
砂嵐が戦場を覆い、空は赤く染まり、幾千もの兵が倒れた。
侍の国の剣は折れ。
忍の国の影は潰えた。
二つの国が一つとなって挑んだ初陣。
その結果は、惨敗だった。
戦場に立っていた者達は後に語る。
それは戦ではなく、一方的な蹂躙だったと。
砂の国デュラハン王、テッード。
その男は戦場の中心に立ち、最後まで傷一つ負わなかった。
撤退の角笛が鳴る。
侍の兵は刀を引きずり。
忍の兵は仲間を背負い。
敗北の大地を去っていった。
その後。
二つの国の王は、生き残った家臣達を集め、焼け残った城で会議を開いた。
室内に沈黙が落ちる。
誰も言葉を発しない。
あまりにも多くを失った。
国土。
兵。
誇り。
未来さえも。
長い沈黙の末、一人の家臣が口を開いた。
『デュラハンの兵達は我々をこう呼んでおります』
『失われた者達』
『敗者の国』
『ロストども、と』
その言葉に怒号が上がった。
刀の柄を叩きつける者。
机を殴る者。
悔しさに歯を食いしばる者。
だが、侍の王は静かに目を閉じた。
そして、意外な言葉を口にする。
『ならば、その名を受け入れよう』
場が凍りつく。
『王よ、何を――』
忍の王もまた頷いた。
『我らは確かに失った』
『国も、誇りも、多くの仲間も』
『だが』
『失った者だからこそ、失った者の痛みを知る』
侍の王が続ける。
『二度と同じ過ちを繰り返さぬために』
『この敗北を忘れぬために』
『我らはその名を背負う』
二人の王は立ち上がる。
互いの手を重ねた。
『今日より、侍の国と忍の国は一つとなる』
『その名は――』
『ロストウィルム』
失われし者達の国。
その名は蔑称として生まれた。
だが人々は、その名に誓いを刻んだ。
失ったからこそ守れるものがある。
失ったからこそ強くなれる。
そうしてロストウィルムは誕生した。
後に白銀騎士団を生み出し、多くの英雄を輩出することになる国。
その始まりは、敗北からだった。
それからというもの。
ロストウィルムは目覚ましい発展を遂げていく。
忍たちは国を離れ、各地を巡った。
雪原の国では寒冷地での生活技術を学び、
機械国家では歯車や蒸気機関の仕組みを持ち帰る。
華の国では医術や薬学を。
魔法大国では高度な魔法理論を。
彼らは見聞きした全てを国へ持ち帰り、知識として積み重ねた。
一方、侍たちもまた変わった。
剣だけを極める時代は終わる。
剣術に魔法を組み合わせる新たな戦い方が生まれ、
魔法剣士と呼ばれる者たちが現れ始めた。
鍛冶技術も飛躍し、
機械技術との融合によって新たな武具が次々と開発される。
経済は発展し、
街は広がり、
人々の暮らしは豊かになっていった。
そして気づけば、
かつて「失われた国」と嘲笑われたロストウィルムは、
世界でも指折りの大国へと成長していた。
そして今。
かつて歴史が動いた、あの場所。
砂の国デュラハン。
王国ロストウィルム。
二つの大国が、再び国境を挟んで対峙していた。
乾いた風が砂を巻き上げる。
両軍合わせて数万を超える兵士。
槍を構える者。
剣を握る者。
杖を掲げる魔導士。
馬上で命令を待つ騎兵。
誰一人として声を発しない。
戦場は、不気味なほど静かだった。
その静寂を破るように、一陣の風が吹く。
互いの国旗が大きくはためいた。
互いに兵を鍛え。
互いに技術を磨き。
互いに国力を高め続けた。
両軍の視線が交わる。
誰もが理解していた。
ここから始まる一戦が、両国の未来を決めることを。
そして。
戦いの火蓋は、今まさに切って落とされようとしていた。