テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ファンタジー
「ところで、ピアスなんだが……受け取ってはくれるのか?」
「もちろん受け取るけど、なぜピアスなの?」
「そうか、こちらには無い習慣なのか」
ロシェルの反応を見て、レイナードが一人で納得する。
「あぁ、すまない。あまりに似た世界だから、ピアスで問題ないのだと勝手に思い込んでいた」
何を思い違いしているのかわからず、ロシェルは首を傾げた。
「祖国であるカルサールでは、結婚する相手にピアスを贈る風習があるんだ。互いが互いの耳に針の様な道具で穴を開け、ピアスを着ける。『アナタに対し、想いを貫く』という意味があると言われていたな」
「……その為に、物理的に貫くのですか」
「まぁ、そうなるな」
ピアスの存在は知っていたものの、実際に身に付けている者を見た事はほとんどなく、ロシェルには馴染みが薄かった。体に穴を開けるなんて痛そうだなという気持ちが先立ち、ロシェルは怖じけずく。
「こちらでは、結婚の約束をする時にはどうするんだ?」
「指輪を贈り合うのが一般的ね」
「では、指輪にしようか」
「いえ!こうしてわざわざ用意してくれたんだもの、シドのピアスをもらいたいわ」
「じゃあ、指輪も用意するとか。こちらの習慣にだけ合わせてもらうのもな」
「その時は一緒に選びたいわ」
「そうだな、そうしよう」
レイナードは頷くと、ロシェルの頭を撫でた。そして心ゆくまで髪を撫でると、その手をずらして彼女の耳たぶへ触れる。もにゅもにゅと揉まれ、ロシェルの体が少し震えた。
「綺麗な肌に穴を開けるってのは……ちょっと緊張するな。魔法で開けようかと思うんだが、お勧めはあるか?」
「氷の魔法で開ければ、多少は痛くないんじゃないかしら?」
「そうだな、そうしよう」
コクッと頷き合い、レイナードが「ロシェルからでいいか?」と訊く。
「はい。一気にやっちゃって下さい!」
怖い気持ちを誤魔化す様に、ロシェルが少し大きめの声で答えた。
レイナードはロシェルの両耳をそれぞれ指で掴み、少し強く挟む。耳たぶを貫く小さな穴を思い描き、そこへ氷の魔法を流し込む。
すると彼の指先から冷気が溢れ出し、バチンッと音を立てて氷の針がロシェルの耳たぶを貫いた。
それと同時に、気をそらす為にと、レイナードはロシェルの唇に一瞬だけキスをした。
彼からのキスに驚き、耳に走った鈍い痛みを感じる余裕などなく、ロシェルは目を見開く。
「……シド」
即座に離れた彼の温もりに名残惜しさを感じながら、ロシェルは自らの唇へ触れた。冷静な時の彼からのキスなど初めての事だ。
ジワジワと喜びが体の奥から溢れ出し、涙となって零れ落ちる。
「い、痛かったのか?」
レイナードが慌ててポケットから白いハンカチを取り出し、ロシェルの耳を押さえる。冷やしたおかげか、まだ血は出ていない。
「いいえ、大丈夫。ただ、ちょっと嬉しくって」
その言葉に、彼は安堵した。
箱から消毒済みのピアスを取り出すと、それをロシェルの耳へ着ける。
彼に続き、ロシェルも同じ様にレイナードの耳へ穴を開け、ピアスを着けた。同じサイズのピアスだが、彼に着けると石がとても小さく見えてしまい、存在感が薄くなってしまう。その様子にロシェルは少し笑ってしまった。
「シドにはもっと大きなデザインの物がいいかもしれませんね」
「同じのでないと意味がないから、これでいい」
レイナードはそう言うと、自分の耳にあるピアスへそっと触れた。
「……いいな、ロシェルとお揃いの物を身に付けるというのは」
彼からのキスだけでも嬉しかったのに、その一言でロシェルの胸は幸福感でいっぱいになり、勢いよく彼の首へ抱きついた。
「ありがとう、シド!」
首に腕を回し、苦しくなるほど強く抱きつきながら、顔をレイナードへ擦り付ける。
「喜んでもらえてよかったよ」
頭をぽんぽんと撫でる様に叩き、レイナードはロシェルの体を抱き締めて立ち上がった。突然体を持ち上げられて驚いたロシェルが「きゃっ」と声をあげる。
床へロシェルをそっと降ろして立たせる。そしてレイナードはロシェルの前へ跪くと、彼女の手を取り顔を見上げた。
「嫁に来てくれるか?ロシェル」
レイナードからの言葉に、ロシェルの瞼からボロボロと止まる事なく涙が零れ、彼の手の甲へと落ちる。肩を震わせ、顔は泣き過ぎてくしゃくしゃになっていくが、そんな顔ですらも可愛く感じ、レイナードは笑みをこぼした。
「もちろん!大好きよ、シド」
ロシェルがレイナードの胸へ飛び込み、彼がそれを受け止める。
「これでずっと一緒ね!」
「あぁ、一生傍に居ると誓うよ」
レイナードはそう言うと、そっとロシェルから離れた。そして彼女へ向かって右手を差し出し、ダンスに誘う様な仕草をしながら腰を折る。
柔らかに微笑み、ロシェルがそれに応じてレイナードの手を取った。
ワルツの足運びをゆっくりと始めた二人は、満天の星空の下で踊り始める。 靴と床がぶつかるたびに星屑みたいな光が生まれ、空間に舞う。ロシェルが使った魔法の効果だ。
くるんっと二人が回り、スカートの裾が花の様に広がると、今度は雪の結晶の様な形をした光も空間に舞い、星や月の光を受けてキラキラと輝いた。こちらはレイナードの魔法だった為、ロシェルは驚き、「綺麗ね!素晴らしいわ!」と子供みたいにはしゃいだ。
月明かりに照らされながら踊るロシェルの嬉しそうな笑顔を見て、レイナードはとても満たされた気持ちになる。
切実に、ずっと欲しいと思っていたモノが、やっと手に入ったと実感出来る。
一緒にいられて嬉しい、可愛い、触れていたい、独占したい。
(あぁ、これが『愛している』って事なのか——)
レイナードはやっと目の前にあった答えへ気付き、ダンスの締めにはロシェルへ深い口付けを贈ったのだった。
【完結】
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!