実家を出ると、空気は若干冷たかったが空は青く澄んでいてとても良い天気だった。
久しぶりに一人でカフェやショッピングに行けるので、優羽は嬉しくて浮足立っている。
まずは商店街の新しい店をチェックしてから、裕樹が言っていたカフェでランチにしよう。
その後は郊外の大型ショッピングセンターに行き流星の服や靴を見て回ろうと思った。
実は優羽は気になっていた店がある。少し前にオープンした雑貨屋がアーケード街にあるのだ。
その店は古い建物をそのまま使い少しレトロでアンティーク風な店づくりをしている。
車でその前を何度か通った時に気になっていた。
この田舎町にはそぐわないオシャレな雰囲気の雑貨店は、東京からUターン帰省した女性が店長をしていると舞子から聞いたので、優羽は一度行ってみたいと思っていた。
雑貨店の前に着くと、優羽は店のドアを開けた。
店内にはボサノバが流れている。ほんのりとアロマの香りもしてとても落ち着く。
レジのカウンターにはミルクティーベージュの髪を緩くアップにした素敵な女性が立っていた。
女性は優羽が入ると「いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。
優羽よりも少し上くらいの年齢だろうか?
着ている服もセンス良く、その店にいるとまるで東京の雑貨店にいるような感覚になるから不思議だ。
優羽は女性にぺこりとお辞儀をすると、店内を隅から見て歩いた。
取り扱っている商品は、キッチン雑貨から文房具、衣類やバッグなど多岐にわたる。
どれもセンスの良いセレクトで、素敵にディスプレイされていた。
優羽は勇気を出して店長の女性に話しかけてみた。
「東京から戻ってこのお店をオープンされたとうかがったのですが..」」
すると店長の女性は笑顔で頷いてから言った。
「そうなんですよ。もともとはこっちが出身なんです」
そこで優羽も以前東京にいたと話すと二人は意気投合する。
雑貨店の店長は、桜井美和という女性だった。
東京では自由が丘の雑貨店の店長を務め、歳は優羽よりも三歳上だった。
優羽がアパレル系の仕事をしていたと話すと、更に話しは盛り上がりしばらくの間お喋りは続いた。
「一人でお店をオープンするなんて凄いです」
「そんな事ないわよー。あとね、ここだけの話だけど私シングルマザーなの。子供も一人いるのよ」
「えっ? 私と同じ」
「うっそー! えーっ!? そんな偶然ってあるのねー」
二人は声を出して笑いながらさらに距離が縮まる。
聞けば、美和の子供は小学校一年生の男の子だという。町外れにある実家で母親と三人で暮らしていると言った。
普段は息子の面倒は母親が見てくれているので、こうして仕事に集中できるのがありがたいと言った。
優羽は美和を見て、シングルマザーでも夢に向かって頑張っている人が実際にいるという事を知りすごく励みになった。
そしてそんな美和の事を心から尊敬した。
お喋りが一段落したところで、優羽は仕事に使えそうな黄色いミモザ柄の手帳と揃いのボールペンを買った。
会計を済ませると美和が連絡先を交換しましょうと言ったので優羽は携帯ですぐに教えた。
シングルマザー同士今度お食事にでも行きましょうと美和が言ってくれたので、優羽は「是非!」と答えた。
ちょうどその時新たに客が入って来たので、優羽は挨拶をして店を出た。
素敵な人と知り合いになれた優羽は、やる気がみなぎってくるのを感じていた。
(私ももっと頑張らなくちゃ!)
そう思いながら、清々しい気持ちで歩き始めた。
時計を見ると11時を過ぎていたので、少し早めにカフェに行き空いているうちにのんびりしようと思った。
優羽は元気よく駅前のカフェへ向かって歩き始めた。
途中、何ヶ所かの店を覗きながら進む。
その時なんとも言えない違和感がしたので、優羽は歩きながらふと後ろを振り返る。
するとそこには金髪にサングラスの一見するとガラの悪い雰囲気の男が不自然に立ち止まっていた。
駅へ続く道なのでもしかしたら自分と同じ方向へ向かっている人なのかもしれない。
優羽はそう思い直す事にして、また前に進んだ。
金髪の男をやり過ごせばいいんだと思った優羽は、あえて途中にある店で足を止める。
しかし優羽が立ち止まるとその男も立ち止まる事に気付いた。
男が優羽を追い越す事は決してなかった。
(もしかして尾行されている?)
嫌な予感がした優羽は、試しに早足で歩いてみた。するとその男も早足でついて来る。
優羽が逆にゆっくり歩くと、男も速度を緩めた。
優羽は急に怖くなり足早に歩くと、アーケード街の隙間の路地を曲がった。
商店街には細い裏道が網の目のようにある。小さい頃はこの辺りでよく遊んでいたので土地勘はあった。
その曲がりくねった路地へ入り込み全速力で走った。
曲がり角をいくつも曲がり相手を振り切ろうと必死に走る。
かなり奥まで進んだ時、物置と木の陰に隠れられる場所を見つけた。そこへサッと身を隠すと優羽は息をひそめる。
20秒ほど経った時、金髪の男が走って来た。男はキョロキョロ辺りを見回し誰かを探している。優羽は心臓をドキドキさせながらじっと息をひそめていた。
すると金髪の男はかなり焦った様子でさらに奥へ続く路地を走って行った。
男の姿が見えなくなると優羽はフーッと息を吐いた。
あの金髪の男は明らかに優羽をつけていた。その事実を知り恐怖を感じる。
気づくと優羽の手は汗でびっしょりだった。
その時優羽の携帯が鳴った。
優羽が震える手でバッグから携帯を取り出すと、岳大からメッセージが届いていた。
コメント
2件
元彼が頼んだ探偵?もうなんなのよぉ〜😤 優羽ちゃんよく逃げたね🥺そしてタイミングよく岳大さんからの連絡😭今の状況を伝えて〜😭
せっかく美和さんとお知り合いになれて楽しい時間を過ごしていたのに、誰が何のために尾行⁉️もしかしたらまた西村😡⁉️ 家庭がうまくいってなくて優羽ちゃんのことを興味本位で調べてる⁉️ やられてる方は怖いし😱💦本当に止めて欲しいんだけど💢 でもこのタイミングの岳大さんからの連絡📱‼️ 岳大さん、助けてーっ‼️