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短編小説 11/? 2/? 1/?
果てのない暗闇の中。
ぽつんと置かれた、小さな「焚き火」を見つめていた。
パチパチと、微かな音を立てて。その火は緩くけれども熱く、変わらず燃え続けている。
───焚き火というのは、とても手間がかかる。
消えそうになったら、消えないように、燃え続けるように、風を送り、薪という新しい燃料を絶えず注ぎ足し、決して目を離さずに見張っていかなければならない作業だ。
そしてそれには、いくつかのやり方がある。
ある人は、薪を少しずつ、丁寧に丁寧に入れていって、決して火が消えないように静かに維持する。
かと言えば別の人は、焚き火の燃える目安の時間を鵜呑みにして、大して見張ろうせず、そろそろかなと思ったときに、燃料等をいれる。けれども、その人たちの中には焚き火をつけたこと自体を忘れてしまい、そのまま放ったらかしにして、いつの間にか灰にしてしまう。そんな人もいる。
そんな人を見ると、僕は純粋に、可哀想だな、と思ってしまう。
あまりにも、もったいない。
なぜなら彼らは、その炎が命を燃やす、一番美しい瞬間を見逃してしまっているからだ。
───そして、かつての僕もきっと、そんなつまらない人間の一人だった。
傷つくことを恐れ、死を恐れ、痛みを恐れ、熱量が消えないように必死で引き延ばすだけの、なあなあな生存。
けれど、ある時、思ったんだ。
一度、完全に消えてもいい───そう思ってみたら、世界は少し、愉しくなった。
僕は、ある人に導かれてここまで来た。
不器用で、無様で、だけど狂おしいほどに眩しかったあの人に導かれたからこそ、時に定められた道を外れ、多くの縁に恵まれ、僕だけの「道」をいつしか歩んでくることができた。
けれど、これからは違う。
次は、僕の、僕自身が納得のいく「死」のために、一から道を創り出したい。
ある者に頼んで、僕自身の記憶は一時的に封印されている。何のために秘境を旅しているのか、その過去の詳細は今の僕の頭にはない。
けれど───あの半年間の旅の「熱」だけは、今も確かに、この身体に、細胞に、深く刻まれて残っている。
そして、旅を共にする友も同志たちも確かに僕を見張っている。
僕の火が掻き消えないかを。
───有難い。
ただ、ふらりと。
決してまっすぐな道じゃなくていい。
けれども、正面だけはしっかりと向いて、足を前に出し、これからの人生を、僕自身の力で創造して歩んで生きたい。
その、消えない熱を胸に抱いて。
最後の最後に視える、今まさに僕の元へ訪れているこの感覚───迫り来る死を前にした感覚は、決して「恐怖」などではない。ましてや、理性を失う「錯乱」でもない。
恐怖など、純粋に生きたいと思う強烈な「渇望」と、何者にも決して屈しない「執念」へと変えてしまえばいい。
錯乱など、この冷え切った生を爆発的に燃やすための、最高級の「燃料」にしてしまえばいい。
人間というのは、迷う生き物だ。
迷うからこそ、もがき、足掻き、その泥塗れの暗闇の中から必死で答えを見つけ出そうとする。
そしてその答えとは、いつだって一つしかない。
───生きたい。
───ここで、終わりたくない。
この絶望的な状況から、何が何でも這い上がろうとする醜い執念であり、祈り。
他者から見れば、それは時として、滑稽で、往生際の悪い、愚かな願いと思われるのかもしれない。
しかし、僕は心の底から思うのだ。
それこそが、僕たちのようなどうしようもない人種に───。
与えられた、永劫に続く「幸せ」であるということを!
───ドクン。
胸の奥でボールコンパスが鳴り響いた。その鼓動はどんどん加速していく。やがて地面を転がり。そして、僕が顔を上げた時。
視界は、真っ白になっていた。
式神が僕の周りを守るように広がっている。
それはさながら、根元から天に昇る炎のように守っていた。
その昇り果てた式神はやがて僕の欠損した部分の代替となる。
ボールコンパスは鼓動に合わせ瑠璃色の光が点滅を始めていた。
あぁ…。
いつまでも、地に伏すのは、申し訳が立たない。勿体ないなく、酷く
「つま…らな…い。」
紅暗い空と舞い散る椛の中。
僕はゆっくりと、正面を向いて立ち上がる。
ボールコンパスの光は
点滅をしていた瑠璃色の光は
全てを包み込みが如く、空間を照らした。
目の前で、僕を完全に仕留めたと確信していた怪異『巳魈』も『狛犬』も。あり得ざるものを見るかのように、その異形の身体を強張らせて後退した。
全てを照らす光が3つの眼前に浮き上がる。
やがて…
その光は突如として一気に収束した。それは誓いのために、全てを見据える瑠璃色の武者の瞳となって。
瑠璃色の炎を宿していた。
コメント
1件
つがさん、第14話「火」、読み終えました。 焚き火の比喩がとても沁みました。火を絶やさないために薪を足し続ける作業と、生きることの「手間」が重なる——そして「一度、完全に消えてもいい」と思えた瞬間に世界が愉しくなる、という逆説が刺さります。恐怖すら渇望と執念に、錯乱すら燃料に変えてしまう発想の転換、かっこよかったです。 伏線っぽい「記憶の封印」やボールコンパスの鼓動、式神が欠損部位の代替になる描写も気になります。次が待ち遠しいです。
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辻󠄀美音🩷
1
ラチム
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