「えっと…… 」
このままでいても仕方がないと思い、私から口を開いた。ここはもう、さっさと話題を変えよう。
「このショールとても綺麗な色ですね。他にはどんな物があるんですか?その…… 全部見てみたいなーなんて…… 」
鍵の掛かる部屋の中にクローゼットがある事は、昨日許可のあった場所を探索したのでわかっている。鍵を掛けているという事は私を入れたくは無いという意味なんだろう。入れたく無いと思われている場所に入りたいという頼みは、正直言い難かった。
今の自分にとって此処は知らない世界だ。
頼れるのはカイルだけ。セナさんも助けてくれそうな気はするが、カイルが許可しない事を彼が許すとは思えない。
チラッとカイルの顔色を伺う。案の定渋い顔だ。でも、気軽に使える着替えを手に入れたい私はここで引き下がる訳にはいかない。昨日の晩みたいに、また夜着のみで寝なければいけない日などもう、あって欲しくは無いのだ。
心許ない下腹部に脚をモジモジしてしまう。そんな私を見たからなのか、カイルからゴクッと唾を飲み込むような音が聞こえた。
ビックリして彼を見る。そしたら、即座に顔を逸らされた。カイルの耳が赤いので、何か良からぬ想像をしたに違いない…… 。昨夜の彼の様子から安易に想像出来た。
「あー…… そうだな。でも、あの部屋には君に入って欲しくない。着替えなら僕が出す。君のお世話をするのは僕の権利だ。僕が無理な時でも、使用人達が出してくれるし」
「着替えくらい自分で選びたいです。皆さん色々と忙しいだろうし、そんな事で仕事を増やしたくありませんから」
私は食い下がった。あんな事がもしまたあった時に、『濡れちゃったから新しいショーツが欲しい』なんて、恥ずかしくて人様に言えるかぁ!
「クローゼットを使わせてくれるだけでいいんです」
「でも…… 」
「じゃあせめて、あの部屋に私を入れたくない理由だけでも教えてもらえませんか?それも無しに『ダメ』とだけ言われても、納得出来ません」
「それは、まぁそうだね」
カイルが少し上を向いて息を吐き出した。もしかして、私には言い難い事なのだろうか?
「年に二回程ね、君はあの部屋に籠城して、四日から十日ほど一切出て来なくなったんだ。ご飯と水まで自分で無理矢理持ち込んで、頑なに部屋から出て来ないから、毎回すごく心配したんだよ」
「籠城、ですか。何故です?」と訊いて首を傾げる。
「それは僕が訊きたいよ。——ねぇ、何故なのか思い出せない?」
「いえ、全然…… 」
横に首を振るしか出来ない。動物は満遍なく好きだが、大好きな鳥と違って猫の生態は、自分の事だったみたいなのに、正直あまり知らないのだ。
「あの部屋は使わない。絶対にもう籠らないって約束してくれるなら、開けてもいいけど…… 。この先たとえ、拗ねても怒っても、絶対にあの部屋に引き籠らないって約束出来る?」
くっ…… 逃げ場を確保出来ないのは正直辛い。あの部屋を使用出来ないという事は、毎夜一緒に寝る事を約束するも同然な気もする。
(——でも、着替えを自由に使えないのは不便過ぎる!)
「わ…… わかりました。クローゼット以外は使いません。着替えだけ取ったら、すぐに出ます」
背に腹はかえられず、私はそう約束してしまった。
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