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その頃岳大はテントに吹き付ける激しい風の音で眠れずにいた。想定外の寒さが体力を奪う。

明日以降の天候がどうなっているのか調べたいが携帯が使えないので調べようがない。

岳大は目視で判断しようと寝袋から出るとテントのファスナーを少し開けて外を見た。

夜空はほとんどが厚い雪雲に覆われていたが一部雲の切れ間から星が見えている。

つまり最悪の状態でもなく天気は回復傾向にあるようだ。


少しホッとした岳大はテントのファスナーを閉めようとする。その時雲の合間にひときわ明るい星が流れていった。


(流れ星か)


その流れ星は遠く離れた優羽からのメッセージのような気がして思わず岳大の頬が緩む。

岳大は内ポケットに手を入れると優羽がくれたお守りをギュッと握り締めた。

そして明日に備え再び寝袋へ戻ると浅い眠りに落ちていった。



翌朝、優羽がフロントの仕事をしていると兄の裕樹が山荘にやって来た。

裕樹は役所の厚手の上着を羽織っているので仕事中に立ち寄ったのだろう。


「お兄ちゃんどうしたの?」

「おはよう優羽。岳大さんはまだ帰ってないって?」

「うん、なんか現地が吹雪いちゃって足止めされているらしいの。だから帰りは少し遅れるみたい」

「連絡はついたのか?」

「ううん、テレビニッポンの保坂さんの話では今いる場所が電波が届かない位置らしくて連絡は取れないみたい」

「そうか…….」


裕樹は呟くと少し険しい表情になった。


「何かあったの?」

「いや、さっき長野県から前穂高への全面入山禁止が発令されたよ。季節外れの爆弾低気圧が迫っているらしい。気象関係者も今回の突然の低気圧は予測出来なかったみたいで現場もパニックだよ。信濃大町にも足止めをくらっている登山客が結構いるみだいなんだ」


途端に優羽の表情が曇る。


「それって長引くの?」

「数日続くみたいだね。佐伯さん達は大丈夫かな?」

「………….」


優羽が黙りこくって不安気な表情をしているのに気づいた裕樹は慌てて言った。


「まあ佐伯さんはベテランだから大丈夫だよ、心配すんな。それよりこの辺りも午後からかなりの積雪になるみたいだからお前も車の運転には充分気をつけろよ。じゃあおれ公道の見回りに行って来るわ」


裕樹は手を挙げて山荘を後にした。

優羽は得体の知れない不安が押し寄せて来て心臓がドキドキしている。


その時紗子がフロントへ来た。


「あら? 優羽ちゃんどうしたの? 顔色が悪いみたいね」

「あっ、いえ、今兄が来てこれから天候がかなり悪化するかもって…….」


そこまで聞いた紗子はすぐにピンと来たようだ。


「岳大さんの事なら大丈夫よ。岳大さんにとって穂高は自分の庭みたいなものなんだから。学生時代から何度も登っているんだし。それに彼は海外のもっと過酷な山をいっぱい経験しているんだからこのくらいじゃへこたれないわ。きっと大丈夫よ!」


紗子は元気付けるように優羽の肩をポンポンと叩いた。

そしてわざと明るい声で続ける。


「さあ今日も一日頑張りましょう」

「はい……」



その日の午後から大町市でも激しい雪が降り始めた。時折吹雪くように雪が舞い視界が悪くなる。

優羽が保育園へ行く際にも慎重な運転が求められるほど天候はかなり悪化していた。


その日岳大が戻ったという連絡はなかった。

優羽は念の為井上に電話を入れてみたが岳大達はまだ山にいるようでこの状況だとおそらくあと一日足止めを食らうのではないかと言っている。

明日で下山予定日から2日経つ。


食料は大丈夫なのだろうか? 二晩も寒さに耐えられるのだろうか?

優羽は何も出来ない自分にもどかしさを覚えながらただテレビの天気予報に耳を傾けるしかなかった。


そしてよく眠れないまま朝を迎えた。

今日こそは良い知らせが来る事を信じて優羽は流星を保育園まで送って行った。


雪は相変わらず降り続いている。

春の足音がすぐそこまで来ていた市内の風景はあっという間に真冬へと後戻りしていた。


山荘に戻った優羽はフロントの仕事をしながらテレビのニュースに耳を傾けていた。

すると登山者に関するローカルニュースが流れ始める。


「長野県警は一昨日から行方不明の男女4名の捜索を早朝から開始したところ涸沢カール付近で4名が雪の中で倒れているのを発見しました。4人のうち2人は心肺停止、残りの2人も意識不明の重体…….」


優羽はそのニュースを呆然と立ち尽くして見ていた。涸沢カールと言えば岳大達のルートを少し逸れた所だ。

優羽は不安な気持ちを抱えながらそのニュースをじっと見ていた。



その頃岳大は少し勢いの弱くなった雪を見ながらベテラン小野と坂本を交えて話し合いをしていた。

体調を崩している川田はまだ調子が悪そうだ。

雪が弱まっている今の内に元気なスタッフ達を先に下山させようと三人の意見が一致する。


先に下山させるグループのリーダーは経験豊富な坂本に任せる事にした。

坂本は何度も穂高の山々を登頂した経験がある。だからこの辺りの地形には詳しい。

そして翔真も坂本と一緒に先に下山させる事にした。

岳大は翔真に坂本のサポートを頼みますとお願いすると翔真は任せて下さいと笑顔で言った。

そして先発隊はテントの撤収を始める。


後に残るのは岳大の他にベテランの小野、ディレクターの宮森、そして体調を崩しているスタッフの川田の4名だ。

先発隊には携帯の電波が通じる場所まで行ったらすぐに関係者へ連絡するよう頼んだ。


岳大達はあと2日分の食料を持っていたので午後の天気が回復しなければここでもう1~2泊する覚悟をしていた。

高山病だと思われる川田は吐き気も収まってきたので徐々に回復へ向かうだろう。


先発隊を見送った後、岳大はテントの周りの雪かきをする。あまりの豪雪に吹き溜まりが出来てテントが埋まりそうな勢いだった。

雪かきを終えてからふと空を見上げると厚い雪雲が動き始めている。この分だともしかしたら今日の午後下山するチャンスが訪れるかもしれない。

岳大は残っているメンバーにその事を伝えいつでも出られるように準備をしておくよう指示した。


先に下山を始めた翔真達は順調に山を下り漸く電波の届く場所まできた。すぐに坂本が電話をかけ皆の無事を知らせた。

電話を終えると一行はそのまま新穂高を目指して歩き続けた。雪は徐々に弱まっているように感じられた。


それから3時間後、翔真達は無事新穂高に到着した。

現地にはテレビ局がチャーターしたマイクロバスが待機していた。

それを見たメンバーは心底ほっとした。


マイクロバスの前には翔真のマネージャーもいた。

いつもとは違いかなり心配そうな表情をしていたが翔真の姿を見つけた途端すぐに駆け寄って来る。


「おいーっ、あんまり心配させんなよー」


マネージャーの鈴木の目は少し潤んでいる。相当心配だったのだろう。


「鈴木さん心配かけてすみませんでした」


元気そうな翔真を見た鈴木は心底ホッとしているようだった。



その頃、不安な気持ちのまま昼の休憩をしていた優羽の元へ井上から電話が来た。


「優羽さん、佐伯さん無事だって! スタッフの中に具合の悪い人が出ちゃって下山途中で足止めを食らっちゃったみたいだけど今日か明日には戻れそうだって! 僕はこれから現地へ向かうけど良かったら一緒に行く?」


岳大の無事を聞いた優羽の瞳からはみるみる涙が溢れ出す。

そして言葉が出ないまま震える手で携帯を握りしめていると紗子が来て優羽が持っていた携帯に出た。


「もしもし? ああ井上君? ああそう、そうなのね、良かったわ。うん、あ、もちろんいいわよ、連れて行ってあげてちょうだい。じゃあよろしくね」


紗子はそう言って電話を切る。そして優羽に言った。


「優羽ちゃん、佐伯さんを迎えに行ってらっしゃい! こっちの事は気にしなくていいから。流ちゃんのお迎えはお兄さんにでも頼んで井上君と迎えに行きなさい。佐伯さんもきっとあなたに会いたいと思っているわよ。ほら、しっかりして! もうちょっとしたら井上君が迎えに来るから」


優羽はそこでハッとすると、


「すみま…せん、わ…たし行かなくちゃ……」


しゃくりあげる優羽の背中を紗子が優しくさすってくれた。



流星のお迎えは兄の裕樹が言ってくれる事になった。

そして裕樹は優羽にこう言った。


「ちょうど明日明後日は保育園は休みだしなんなら明後日まで流星を預かるよ。お前はしっかり佐伯さんの世話をしてあげなさい。きっとすごく疲れて帰って来るだろうからね」

「うん、お兄ちゃんありがとう」


それから優羽は慌てて出かける準備をした。

とりあえず現地には待機している人も多いので温かいコーヒーやカフェにあるパンを分けて貰い少し多めに持って行く。


そして優羽はダウンを着込むと井上が迎えに来るのを待った。






【コミカライズ原作】水面に落ちた星屑

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