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椅子に座った少年は、机に視線を落としたまま、声を絞り出した。
「……自分がいなくても、誰も困らない気がするんです。
学校でも家でも、いてもいなくても同じで。
だから……自分の存在って、意味あるのかなって」
蓮司はペンを指先で回しながら、軽く片眉を上げた。
「ほう。いきなり哲学的な悩みだな」
少年は顔を伏せ、唇をかみしめる。
「笑わないでください。……本気で思うんです」
「笑ってねぇよ。俺だって昔考えたことあるさ。“自分って意味あるのか”ってな」
少年が顔を上げると、蓮司は少し飄々とした笑みを浮かべた。
「結論から言うと――意味は“ある”けど、たぶん自分で気づきにくいんだ」
「気づきにくい……?」
「ああ。たとえば、お前が誰かにちょっと笑顔を見せただけで、救われたやつがいるかもしれない。
お前が何気なく書いた一言で、“あ、同じこと思ってる人いるんだ”って安心したやつもいるかもしれない。
けど、それって相手がわざわざ報告してくれるわけじゃないだろ?」
少年は瞬きをして、黙り込んだ。
「人の存在の意味って、たいてい自分じゃ測れない。
でも、確かに誰かの景色には映ってるんだ。
それだけで、もうゼロじゃない」
少年はかすかに首を横に振った。
「でも……そんな小さなこと、意味があるって言えるんですか?」
蓮司は肩をすくめ、にやりと笑った。
「小さいからこそ意味があるんだよ。
大事件を起こさなくても、人の心を支えるのは、だいたいそういう小さなことだ」
少年は目を伏せ、少し考え込むように息をついた。
蓮司はペンを止め、声を少し柔らかくした。
「それにさ。意味があるかないかなんて、急いで答え出さなくていい。
“まだ探してる途中”でも生きてていいんだ。
存在に即効性のある理由なんて、誰も持ってないからな」
少年の肩が少し震え、口元にかすかな笑みが浮かぶ。
「……探してる途中、ですか」
「ああ。生きてるってのは、要するに“まだ答えを探してる最中”ってことだ。
それを続けるだけで、存在してる意味になる。
――まあ、俺からしたら、お前がここに来て話してくれた時点で、十分意味あると思うけどな」
少年は驚いたように目を瞬かせ、それから小さく笑った。
「……ありがとうございます。少し、胸が軽くなりました」
蓮司はペンを回し直し、軽くウインクする。
「よし。じゃあ宿題な。意味を探すのは後回しでいいから、とりあえず今日を生きること。
それで十分だ」