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同日、同時刻――この時、アオイは《アリスト科》で食事をしていた。
前菜、《サーズドグレンサラダ》。
キンキンの冷水で引き締めた《キャブツ》と《ロタス》の葉が、皿の上でシャラリと揺れる。
そこに《ゲルロブスター》のぷりぷりした身と、《ガリルスクラブ》の甘みある肉が散りばめられ、
さらに《ウーリーシャーク》の薄く美しい切り身が優雅に乗せられた。
仕上げは、酸味の効いた赤紫の果実ソース――まさに芸術。
「あむっ……ん~っ、んっ、おいし……っ」
アオイは白い指でフォークを持ち、小さく開いた唇にサラダを運ぶ。
しゃくりと葉を噛むたび、唇が艶やかに震える。
喉を鳴らし、蕩けるような吐息を漏らしながら――彼女はワインを一口。
グラスの中、赤い液体がゆるく揺れて、唇に触れ、喉を通り、全身に沁みる。
「んふ……これだけで、あと10杯はいけるよー……」
――その頃、《モルノ町》近くの山では。
「う、うわあああぁぁああああ!!!」
《ゲルロブスター》が、鋭利なハサミで一人の冒険者を掴み、
そのままねじ切った。肉と骨が砕け、片腕がもげて空中に飛び、
血が弧を描いて――仲間の顔に降りかかる。
「ひ、ひぎゃぁあ!!」
《ガリルスクラブ》は鋭い爪で腹を裂き、その中に顔を突っ込み、
“中身”をしゃくしゃくと食べている。
泥の地面に叩きつけられた足音。血の水たまり。
飲み込んだ《ゲルロブスター》の口から、赤黒い液が滴る。
赤い酒のように――冷たく、濃く、淫靡に。
____
「くぁ……んっ、はぁ……おいしぃ……」
アオイはグラスの底を空にし、さらにもう一杯をおかわり。
顔がぽっと火照り、首筋にかかる金髪がわずかに揺れた。
小さく、軽く――スプーンをとる。
透明な《グレゴリスープ》が、波打つ。
「ん……」
一口、口に含む。
スープの温度、香り、喉を通る感覚、すべてが異質。
この世界でしか味わえない“美味”が、アオイを支配していく。
――同時刻、拠点では。
「姉御ぉぉ! グレゴリの群れが……!」
「な、なんだって……!」
山の拠点。残された部下たち。
そこに、数十匹の《グレゴリ》が押し寄せていた。
体液を撒き散らしながら跳ね、噛みつき、
まだ息のある者の腹に噛みつき、
「ひ、ひぎ……っ!」
《グレゴリ》の長い舌が人間の口に入り込む。
脳髄まで舐めまわし、目を真っ赤に染めながら――そのまま“飲む”。
“地獄の様な光景が拠点を支配していく”
____
「んっ、ん……おいしかった……」
アオイは満足そうにスープを飲み干し、グラスに口づける。
「次は……メイン、だって」
お腹はもういっぱい――でも、アオイの手は静かにナイフとフォークを握っていた。
――その頃、エンジュは。
「っ! 前にも後ろにも魔物の群れ……どうすりゃいいってのさ……!」
エンジュは考えて、考えて、考えて――
でも、答えは出なかった。
肩を落とし、膝をつく。
その瞬間――空から降る、黒い矢の雨。
魔法の矢が、大地を貫き、魔物を穿ち、空を裂いた。
群れがたじろぎ、恐れ、空を見上げる。
「そんな……なんで……」
そこに、いたのは__
漆黒の騎士、『エス』。
黒い弓を――静かに、構えていた。