月遊び

その後海斗は少し仮眠をとりその間に美月は朝食の支度をした。

海斗が起きると二人で朝食を食べ、海斗はシャワーと着替えの為に一度自宅へ戻った。

その後近くの産婦人科に二人で出向き美月は診察を受けてはっきりと妊娠の事実を確認した。

二人の家からほど近いその産婦人科は某有名歌手が出産した事で有名になった人気の産婦人科だった。

海斗が美月と一緒に診察室に入ると海斗と同年代の院長が驚いた様子で言った。

「僕はあなたがデビュー当時からの大ファンですよ」

フレンドリーな院長と海斗はすぐに打ち解ける。そして海斗は早速妊娠に関するいくつかの質問をしていた。

産婦人科を出た二人は今度は区役所へ行き婚姻届けを貰ってくる。

婚姻届けの保証人の欄は、急遽美月の母と亜矢子に近くの喫茶店まで来てもらい妊娠の事実を伝えてからお願いした。

二人はもちろん大喜びで保証人になってくれた。特に美月の母の佳代子は、

「孫の顔が見られるのね」

と涙を流して喜んだ。

そして亜矢子もびっくり発言をする。

「美月、実は私も今二人目を妊娠中なの」

そこにいた三人はびっくりして顔を見合わせてから、

「おめでとう！」

と亜矢子に言った。

美月と亜矢子の子供が同学年になるかもしれないと二人は喜んでいた。

そこで海斗が佳代子に言った。

「武道館での最終ライブは亜矢子さんも美月も大事な時期ですから、お母さんくれぐれも二人のサポートをよろしくお願いします。浩さんには私からメールでお願いしておきますので。当日亜矢子さんと美月の家にはハイヤーを手配しておきますので」

ハイヤーと聞いて亜矢子が喜ぶ。

美月の母も笑顔で答えた。

「大丈夫ですよ。お任せください」

海斗は亜矢子と美月に何度も念を押して言った。体調が悪かったら武道館には無理して来なくてもいいからと。

その後区役所に婚姻届けを提出してから海斗と美月はアパートへ戻った。

海斗はこの後レンタカーを返却してから新幹線で大阪へ戻る予定にしていた。

お昼は食欲のない美月がピザなら食べられそうと言ったので宅配ピザを頼みアパートで食べた。

そして海斗はソファーに座り二杯目のコーヒーを飲みながら寛いでいた。

「美月、こっちにおいで！」

海斗が呼んだので美月が隣に座ると、海斗は美月を壊れ物でも扱うかのようにそっと抱き締める。そしてそのまま美月の髪に鼻を埋めた。

美月は海斗にもたれかかりながら海斗の優しさに包まれて過ごす。

海斗が大阪へ出発するまでのわずかな時間、寄り添う二人の間には穏やかな時がゆっくりと流れていった。

別れ際、海斗はもう自分一人の身体じゃないのだから無理をしちゃダメだよと美月に何度も言った。

もし海斗が今東京にいたら美月にずっと付き添いかねない勢いだ。

「そんなに心配しなくても大丈夫よ」

美月は海斗を安心させるように言った。

そして夕方、海斗は大阪へ戻って行った。

それから数週間、海斗は大阪から九州までの残りのツアーの日程を精力的ににこなしていった。

コンサートの合間には今まで以上に美月と連絡を取った。

ちゃんと食事はとれたか？　ちゃんと睡眠はとれているか？　重いものは持ったらだめだよ等何度も美月に言った。

（今からこんなだと子供が生まれたらどうなっちゃうのかな？）

美月は海斗が父親になった時の事を想像してフフッと笑った。