テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#勧善懲悪
#勧善懲悪
翌日、スレンは濃紺の背広に細い眼鏡、きっちり撫でつけた髪で現れた。背筋まで別人で、扉を開けた瞬間にエリアが吹き出す。
「誰」
「今日は紹介業者の若手」
スレンは低めの声で答えた。
「取引先の家へ入るには、このくらい堅い方がいい」
向かう先は、和菓子屋の娘と無理に縁談をまとめようとしている相手方の家だった。表向きは古い商家。けれど裏では、再開発の持ち分を増やしたい業者とつながっている。
「私が中を見る。外は任せた」
スレンは言う。
「合図は?」
ピットマンが聞く。
「窓が二回開いたら当たり。三回閉まったら逃げて」
軽い口調なのに、目が真剣だった。
数十分後。二階の障子窓が、すっと二回開いた。
「当たりだ」
マイナが低く言う。
中から出てきたスレンは、珍しく肩で息をしていた。
「親同士だけじゃない。業者が金額表を持ってる」
「金額表?」
「どの家と結べば、どの土地と店がついてくるか。人の名前の横に、面積と利益が書いてある」
エリアの顔つきが変わる。
「最低」
「しかも、カレルの恋人役もその計算に入ってた。娘さんに諦めさせる時間稼ぎ」
カレルはその場で立ち尽くした。
「私……本当に、邪魔のためだけに」
「違う」
サペが言う。
「邪魔に使われただけだ」
カレルの唇が震える。
「でも、私、少しだけ思ったんです。誰かの役に立てるなら、代わりでもいいって。だって私、前に出るの苦手だから。選ばれなくても、困らないふりしてた方が楽で……」
店の奥で針を持つ手は迷わないのに、自分のことになるといつも引いてしまう。その積み重ねが、こんな形で利用されたのだ。
エリアはまっすぐカレルを見る。
「楽じゃなかったでしょ」
「……うん」
「じゃあ、もうそこから出ていい」
スレンは懐から小さな紙片を出した。相手の家でこっそり写した内々の会合の日時だ。
「今夜。料亭の離れ」
ジュレイが即座に立ち上がる。
「証拠と本人、両方押さえる」
「本人って」
ピットマンが聞く。
「恋を差し替えられてる当人たち」
サペが答えた。
誰かに勝手に決められる前に、自分の口で言わせる。
それが一番効くと、もう分かっていた。