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日下部の相談室2

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日下部の相談室2

44 - 第44話 テストの点数が下がって、誰にも言えない

2025年11月14日

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放課後の相談室は、夕焼けの光でうっすらと染まっていた。

窓の外では、部活帰りの声が遠くに響いている。

日下部はファイルを閉じ、ふと時計を見る。

約束の時間より、少し早いノックの音がした。


「……入っていい?」


「もちろん。どうぞ」


扉の向こうから現れたのは、細い肩の男子生徒だった。

鞄を抱えたまま、どこか落ち着かない様子で立ち尽くしている。

視線が何度も床と天井を往復したあと、ようやく小さな声が落ちた。


「……テスト、全然だめで」


日下部は頷き、向かいの椅子を指さした。

彼はおそるおそる腰を下ろし、両手を膝の上に置く。

握りしめた拳が、白くなっていた。


「点数、聞いてもいい?」


「……平均より、けっこう下です。

でも、誰にも言えなくて。

友達には“まあまあ”って言っちゃったし、家でも“普通だった”って……

本当は“やばい”って思ってるのに、なんか言えないんです」


言葉の端が震えていた。

悔しさとも情けなさともつかない感情が、彼の喉の奥でつかえている。


「言えなかった理由、なんとなく分かるよ」


日下部は柔らかく言う。


「“できない自分”を見せたくなかったんだろ」


生徒は、少し驚いたように顔を上げた。

そして、視線を伏せて小さく笑った。


「……そうです。

笑われるのも、がっかりされるのも怖くて。

でも、シラを切る自分も嫌で……。

ほんとは、“頑張ったけどだめだった”って言いたいだけなのに」


その言葉には、焦げついたような自己嫌悪が滲んでいた。

日下部はしばらく黙り、机の上のマグカップに手を伸ばした。

温かいカフェオレを注いで、彼の前に差し出す。


「隠したくなるのは、逃げてるんじゃなくて、守ってるんだと思う」


日下部の声は静かだった。


「“できない”って言葉って、思ってるより重い。

それを人に見せるのは、勇気がいるんだよ」


「……守ってる?」


「うん。自分の心を。

本気で頑張ったことほど、失敗を認めるのは痛い。

だから人は、ちょっとだけ強がる。

それは悪いことじゃない」


少年はカップを両手で包み、湯気の向こうを見つめた。

まるで自分の呼吸が戻ってくるのを確かめるように。


「……でも、また怒られるかもしれません。

“なんで前より下がったんだ”って。

そう言われるのが、もう怖くて」


「怒られても、点数は“お前の価値”じゃない」


日下部は真っ直ぐに言った。


「点数は“今の状態”を映す鏡みたいなもので、

それをどう使うかはお前次第だ。

誰かの顔色を見るために勉強するのは、しんどいだろ」


生徒の目が揺れた。

何かを堪えるように、唇がきゅっと結ばれる。

そして小さく、言葉がこぼれた。


「……ほんとは、褒めてほしかっただけなのかもしれません。

“頑張ったね”って、誰かに言われたら、もう少し頑張れた気がして」


「その気持ち、大事にしていいよ」


日下部は微笑む。


「“認められたい”って、ちゃんとした願いだ。

それを自分で否定しないで。

人に言えないときは、まずここで話せばいい。

点数のことでも、気持ちのことでも」


夕焼けが、窓の縁を金色に染めていた。

少年はその光を見つめながら、少しだけ肩の力を抜いた。

空気がふっと軽くなったのを、日下部は感じた。


「……次は、ちゃんと話してみようと思います。

怖いけど、逃げてるのも疲れるし」


「うん。逃げるのも頑張るのも、“生きてる証拠”だからな」


少年は静かに笑い、深く頭を下げた。

その姿を見送りながら、日下部はカップの底に残ったわずかな泡を見つめていた。

あの子が自分を責める代わりに、少しでも息をつける夜が来ることを願いながら。


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