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一月後、世界中にルスラム帝国のキルステン皇太子を讃えるニュースが流れた。
キルステンは水中堤防を築くことにより、味方に死傷者を出す事なく海賊を撃退したらしい。
私は無事に彼を救えたことに胸を撫でおろした。
エマヌエル皇帝が来月にはキルステンに譲位するという。
ここ最近、公式行事にエマヌエル皇帝が出席したという情報がない。
もしかしたら、皇帝陛下の体調が良くないのかもしれない。
私はふと幼くして母親を失ったキルステンの孤独を思い出し胸が痛くなる。
本当は側にいたいけれど、太陽が降り注ぐこの時間の私は猫。
そして、私が産んだフランシスもこの時間は猫だ。
夜だけ開く花屋を閉めて、部屋で猫として親子で寄り添う時間。
私は既にこの時間に安らぎを感じるようになっていた。
階下から階段を登ってくる音がする。
(この時間にフェリクスが戻ってくるなんて!)
扉をノックする音と共に汗だくのフェリクスが現れる。
「にゃー!(タオル、使って!)」
私は口に咥えたタオルをフェリクスに渡す。
フェリクスは真っ白なタオルで汗を抑えながら口を開いた。
「エリナ! アルマが魔女だったとルスラム帝国から発表があって、今、指名手配になってる」
「にゃー、にゃー?(そんな、キルステンは大丈夫なの?)」
アルマが魔女だとキルステンは知っていた。
キルステンがアルマを聖女だとルスラム帝国に招き入れている。
危険人物を引入れた愚かな君主として批判されてしまうかもしれない。
「大丈夫だ。キルステン皇太子殿下自身が世界中にアルマを捕まえるように通達を出した」
「にゃー!(アルマは帝国から逃げてるって事ね)」
魔女はこの世界では危険人物として火炙りの刑にされる。
クリフトン様は魔力を持って生まれたが、王族であるからその身が保護されているだけだ。
王族であっても魔力があることでクリフトン様は恐れられて来ただろうし、自分でも理解しているから人と距離をとっている。
アルマは逃げ回るだろうが、変身できる彼女が他の人間に捕まえられるとは思えない。
ふと、体が宙に浮かぶ感覚があり、フェリクスが私を抱き上げるのが分かった。
強い違和感を感じ、私は慌てて彼の手元から飛び降りる。
フェリクスは私が猫の時でも、私が人間である時のように接する。
だから、突然抱き上げたりは絶対にしない。
すると、私を見下ろす暗いルビー色の瞳と目が合った。
こんな目で私を見るフェリクスを見たことがない。
彼の私を見る目はいつもお日様のように温かい。
「にゃー!(アルマだ!)」
私は目の前のフェリクスの姿をした存在がアルマだと気づき、咄嗟にフランシスを守ろうと彼に覆い被さった。
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