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カラカラと勢い良く回っている車輪は、ゆっくり速度を落として行く。
人力車を引いていた虎の力が抜けた。
「奥様!到着すっー!!」
桑畑をぬけ、見覚えのある屋敷が櫻子の前にある。
金原の屋敷の全景をみるのは、まだ何度目か、ではあるけれど、櫻子には、落ち着ける場所と感じられていた。
「奥様、荷物運びます!」
虎が成田屋から持ち帰った生地を抱え、先に行く。
「おーい!お浜さーん!」
手が塞がって玄関が開けられないと、虎がお浜を呼ぶと、
「あーい!虎ちゃーん」
子供の声と共に、玄関が開かれた。
ガラス戸を、あの子供──、お玉が開けている。
「あら、お玉ちゃん……その、着物……」
明かに大人物の、小粋な縞模様の着物を、おはしょりをたっぷり取って、さらに、袖を踏みつけない為にか、たすき掛けしているお玉がいた。
「あい!お浜ねぇーさんの!」
「お玉、お浜ねぇーさんって、なんだ?」
虎が、首をかしげる。
「あれまっ!ごめんなさいよ!雑巾がけしていたからねぇ」
ハリソンを通した部屋から、お浜が、ひょっこり顔を出した。
「まったく、ハリソンめ、靴は脱げないとかなんとか言ってくれてさ。土足で上がり込むから、雑巾がけしなきゃならなくてねぇ」
だから、余計な仕事が増えると、バケツへ雑巾を放り込みんだお浜が、ぶつくさ言いながら、部屋から出て来る。
「お浜さん、お玉ちゃんの着物は……」
「ああ、着てた着物じゃあ、あまりにも、だから、あたしのをね。当然、風呂にもいれましたよ。もう、垢だらけで。髪は、まだ、もつれたままだから、縛って、誤魔化してますけどねぇ」
ふうと、お浜は、息をつく。
「まあ、ほんとに疲れた、まいった、まいった」
確かに、お浜が弱りこむのもわからなくはない。金原曰くの、犬ころ、お玉は、連れてこられ来た時とは大違いで、見違えるほど、こざっぱりしていた。
そこまで整えるのは、大変だったろうと、櫻子も目を見張る。
「虎、なんだい、それは」
脇に控えている、虎に、お浜が言った。
「あっ、これは、奥様の荷物っす!」
「……そうなんです。お玉ちゃんの着物を仕立てようと思って、成田屋さんで、生地を……」
「櫻子ちゃん、キヨシとドレス作りにいったんだろ?それに、成田屋って、ドレスの仕立て屋だし……まさか、お玉にドレスを!?」
「いえ、そうではなくて……」
櫻子は、お浜に事情を説明した。
「あのままでは、と、私も思って……」
「なるほどねぇ、そりゃー、面白い考えだけど、また、大胆なことを考えついたねぇ」
さすがだ!と、玄関の外から、お浜に続き、ドスのきいた男の声が流れて来る。
皆が振り向いた先には、恰幅の良い、初老の男がいた。
「おや、山根の親分さんじゃないですか?」
お浜が、言うが早いか、虎が、荷物を落としそうになりながら、叫ぶ。
「お浜さん!こいつらっす!!奥様を襲ったのは!!」
確かに、櫻子を襲った二人組がいた。
「すまん!この通りだ!」
親分とやらは、即座に、土下座する。
それと同時に、バケツを手にした、お浜が、その水をぶちまけた。
ザブンという水が飛び散る音がして、ひやあー!と、親分が声をあげた。
「あ、手が滑って、親分さん、すみません!うしろの、野郎どもでしたねっ!!」
苛つきながらも、お浜は、やらかしたと、水びたしになった親分へ謝った。
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