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作 者 く ん .ᐟ.ᐟ
作 者 く ん .ᐟ.ᐟ
作 者 く ん .ᐟ.ᐟ
ピピピ、ピピピ、ピピピ
風香
いつもの電子音 ――――― 午前 7:30。 目が覚めたとき、世界は静かすぎた。 カーテンの隙間から差し込む光は、やけに白い。 雨の音はしなのに、部屋は湿っている気がした。 枕元のスマートフォンが、淡く震えている。 ――― 不在着信3件。 すべて、同じ名前からだった。
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不在着信
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不在着信
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不在着信
私は電話に出た。
風香
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通話
00:00
風香
お母さん
電話は母からのだった。
風香
お母さん
お母さん
風香
風香
風香
お母さん
風香
お母さん
風香
風香
お母さん
お母さん
風香
お母さん
お母さん
私の父は、私が生まれて間もない頃に行方不明になったらしい。 顔も、声も、記憶にない。 写真もほとんど残っていない。 私にとって父は、生まれた時から「いない人」だった。 ただ、残されたのは借金だけ。 母はそれを、誰にも頼らず背負った。 昼も夜も働いて、私を育ててくれた。 決して楽な生活じゃなかった。 それでも母は、私の前ではいつも笑っていた。 「大丈夫よ。風香がいるから、幸せなんだから」 そう言って、疲れた手で私の頭を撫でた。 私は父を知らない。 でも、母がいたから、不幸だと思ったことはなかった。
風香
風香
お母さん
少し、息を整える音。
お母さん
喉の奥で、かすかに笑う気配。
お母さん
風香
お母さん
お母さん
お母さん
暫く沈黙が続く。
お母さん
風香
そして、母は少しの間を置いてから再び口を開いた。
お母さん
風香
お母さん
風香
少し強めに言ってしまう。
風香
沈黙
お母さん
風香
お母さん
風香
少し息を吸う音。
お母さん
風香
声が少し震える。
風香
風香
お母さん
母の声が、少しだけ強くなる。
お母さん
お母さん
風香
お母さん
母は少し笑った。
お母さん
お母さん
言葉がゆっくり落ちる。
お母さん
風香
胸の奥が、ぎゅっとなる。
お母さん
風香
お母さん
静かな声。
お母さん
その一言で十分。
お母さん
なのに―――
風香
お母さん
風香
鼻がつんとする。
お母さん
風香
お母さん
小さく笑い合うと空気が少し軽くなる。 そして―――
お母さん
風香
お母さん
お母さん
風香
お母さん
風香
少しの間を置く。
お母さん
風香
お母さん
風香
涙声のまま笑う。
お母さん
風香
風香
お母さん
風香
風香
お母さん
風香
お母さん
風香
風香
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通話
00:35
―――ピッ。 通話が切れたあとも、しばらく耳の奥に母の声が残っていた。 私はゆっくりと体を起こし、パジャマを脱いで私服に着替える。鏡に映る自分の顔は、思ったよりも冷静だった。取り乱しているようには見えない。 ただ、どこか現実感が薄いだけだ。 冷蔵庫を開ける。中身は、ほとんど空に近い。 光だけがやけに白くて、生活感のなさを強調している。 棚の隅にあった食パンを一枚取り出し、イチゴジャムを雑に塗る。 甘さを感じる余裕もなく、そのまま齧った。 味というより、ただ“何かを口に入れている”という感覚だけがある。 髪を整え、寝癖を押さえ、いつも通りに見えるように整える。 机の上に広げたままの教科書とノートを、リュックへ無造作に詰め込んだ。 玄関でローファーを履く。紐もないのに、なぜか結び直すような気持ちになる。落ち着かない指先が、無意味に甲を押さえた。 深呼吸をひとつ。そしてドアノブを回す。
外の空気は、思っていたよりも冷たかった。 頬に触れた瞬間、頭の奥が少しだけ冴える。 ドアを閉め、私は一歩下がって確認する。
風香
風香
わざとらしいほど明るい声。誰に聞かせるわけでもない、ただの独り言。 静まり返った廊下に、自分の声だけが妙に響いた。 オートロックの前に向かおうとした、そのとき ―――
ガチャ―――ッ
隣のドアが開き、静まり返った廊下に、金属音がやけに鮮明に響く。 私は反射的にそちらを見た。出てきたのは、見覚えのない男だった。
朝の光を受けて、さらりと流れる黒髪。作り込んだ様子はないのに、 指を通せばそのまま零れ落ちそうなほど――柔らかそうだった。
風香
一瞬、思考が止まる。
男はドアを静かに閉め、鍵をかけた。 その仕草が妙に丁寧だった。確認する指先まで無駄がない。 服装はスーツ。しかし、ただのスーツじゃない。 深いチャコールグレーのジャケットの下に、きちんと仕立てられたベスト。 身体の線に沿ってぴたりと合っている。 スラックスも皺ひとつなく、布地にさりげない高級感がある。 革靴は黒。光りすぎず、でも確実に手入れされている艶。
風香
風香
風香
姿勢がまっすぐすぎる。 背中が、妙に隙がない。
彼はゆっくりとこちらへ歩いてくる。 心臓が、ひとつ跳ねた。
風香
風香
―――すれ違う距離。 ふわり、とほのかに香る整った香水の匂い。 けど強くない。むしろ清潔で、記憶に残る。
男の横顔が視界に入る。目元は切れ長で、涼しい。 表情はほとんど動かないのに、不思議と距離を感じない。 ―――ただ、静かで。 朝の廊下の空気ごと、彼に整えられてしまったみたいに。
風香
心の中で、ぽつりと呟く。目が合う、かと思った。 けれど彼は私を見ない。視線はまっすぐ前を向いていた。 そもそも最初から彼の視界に私は映っていないのだろう。 それが逆に、意識させる。
―――カツ、と革靴の上品な音が小さく鳴る。
彼はそのまま階段へ向かい、静かに降りていった。 黒髪が、最後にさらりと揺れる。私はしばらく動けなかった。
風香
胸が、ほんの少しだけ騒ぐ。
風香
誰もいない廊下に、独り言が落ちる。 さっきまで母の声でいっぱいだった頭の中に、 違う存在が入り込んできてしまった。
だけど胸の奥が、ほんの少しだけくすぐったくなる。 こんな出会い、ドラマみたいだ。 隣の部屋に、ある日突然現れるイケメン。 しかもスーツ姿。大人っぽくて、静かで、余裕があって。
風香
ありえない想像が、するりと浮かぶ。
風香
そう思った瞬間、自分で恥ずかしくなる。
風香
でも、ほんの一瞬だけ、本気でそう思ってしまったのだ。 私は横にぶんぶんと首を激しく振った。
風香
風香
そう言いながらも、階段の方をもう一度だけ見てしまう。
でも、もう男の姿はない。
ただ、さっきまでより少しだけ世界が整って見えた。
―――まるで、何かが静かに始まったみたいに。
そのとき――
そのとき――
ヴィ――ヴィ――ッ
ポケットの中でスマホが震えた。画面を見る。 ――― 午前 8:18
風香
一瞬、理解が追いつかない。次の瞬間。
風香
現実が、容赦なく戻ってきた。
風香
風香
風香
私は慌ててリュックを抱え直した。 さっきまで静かだった廊下を、小走りで駆け抜ける。 階段を降りながら、心臓がドキドキと音を立てる。
恋の予感じゃない―――完全に遅刻の鼓動。
風香
風香
風香
風香
さっきまでの甘い妄想は、あっという間に吹き飛んだ。 ――けれど。
風香
階段を降りきる直前、私はほんの少しだけ思う。
風香
その感情が、今日一日のどこかを、ほんの少しだけ明るくした。 そして私は、いつも通りの大学へ向かう。
作 者 く ん .ᐟ.ᐟ
作 者 く ん .ᐟ.ᐟ
―――2話の予告 ―――
【次回予告】フィースト・ブライド 第2話「一目惚れ」 大学へ向かう朝。 風香は友達と最近流行りの都市伝説で盛り上がる。 「ねぇー渋谷で消えた大学生の話、知ってる?」 「一件じゃないよね...失踪者増えてるらしいよ」 笑い話のはずだった。 だって、そんなのただの噂。 都市伝説の“延長線上”にある作り話。 ――そう思っていた。 その夜。 マッチングアプリで知り合った他校の大学生から、DMが届く。 「今度、直接会わない?」 「風香ちゃんと、ちゃんと話してみたい」 何気ない言葉。 優しくて、穏やかで、少しだけ惹かれる声。 でも。 その人のプロフィール写真を見た瞬間、胸の奥がざわついた。
―――――その男は。
作 者 く ん .ᐟ.ᐟ
To be continued...
第2話【第二章】一目惚れ
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