茜
夜中の散歩は気持ちがいいな
茜
夜風が心地よくて悩みもその風に乗って溶けていく気がする
茜
気がするだけなんだけどね
茜
柴崎さんが僕にお節介を焼き始めて結構経つけど
茜
その度にやっぱり僕は恋愛には興味無いなって思わされる
茜
自覚はしてるけどここまで無いとは
茜
自分でもびっくりしてるわ
茜
茜
1人になると過去を思い出すな
茜
大体は掘り返したくない過去ばっかりで
茜
憂鬱になるんだけど…
茜
けどそれが掘り起こされるってことは
茜
それだけ自分はその過去に囚われてるのかもしれない
茜
僕はきっと無意識のうちに保守的になってる
茜
自分が傷つくのが怖くて…
茜
誰かに相談したくても
茜
内容はしょっぱいものだし
茜
相談することも出来ない
茜
故に僕は独り心を閉ざす
茜
これを克服できた時僕は恋愛も人に興味を持つことも出来るのに…
茜
くそっ……
茜
こんなチンケな事で思い悩むなんて
茜
柴崎さんが変に僕に構ってくるから…
茜
考えなくてもいいことを何度も繰り返し考えるようになって……
茜
思い出せ僕
茜
結局人は最後1人なんだ
茜
どれだけ人と関わろうと最後1人なんだ
茜
裏切られたり悲しい思いをするくらいなら
茜
1人で全て抱え込んで苦しむ方がきっと楽なんだ
茜
今までもそうやって生きてきた
茜
そしてこれからも僕は1人で生きる
茜
友人が出来ようと一定の距離を保って…
美波
美波
伊都町…さん?
茜
!
茜
美波さん…
美波
おひとりでどうかなされたんですか?
茜
別に…
茜
夜風に当たってただけだよ
茜
そういう美波さんは?
美波
私は犬の散歩
美波
それと伊都町さんと同じで夜風に当たろうかなって
茜
そうなんだ
美波
美波
ねぇ伊都町さん?
茜
ん?
美波
この前一緒に帰った時あったよね?
茜
そんなこともあったね
美波
その時にさ話してくれたこと
美波
覚えてる?
茜
僕が他人に興味を持てないって話だよね
美波
あの時は過去の話を聞かせて貰えなかったけど
美波
今、もう一度話を聞かせて貰えないですか?
茜
……
茜
美波さんもずいぶんお節介焼きなんですね
美波
結衣ちゃんの近くにいたからかな?
美波
それが移っちゃった
茜
別に大した話じゃないよ
茜
それに同情してくれなくてもいい話だから
美波
それでも聞きたい
美波
伊都町さんが話したくないって思ってても
美波
どうしても聞いておきたいんです
美波
失礼かもしれないですが……
茜
まぁ……
茜
端的に話してあげる
美波
ほんとですか!?
茜
僕が人に興味を持てなくなったのは
茜
中学の頃なんだ
茜
その時までは今と違って友人もいて
茜
恋愛にも興味があった
茜
けど、とあることがきっかけで人に興味を示さなくなって
茜
恋愛も興味を失ったんだ…
茜
そのうちの一つがとある友人による僕の使っていたものの破壊
茜
意図的ではないとはいえ物を壊されてね
茜
それ自体は別に怒る気はなかった
茜
消耗品だから壊れてしまうのは仕方ない
茜
けど、僕はその後の行動に怒りを覚えたんだ
茜
壊したものを隠し何事も無かったように振る舞いだした
茜
要は隠蔽工作だよね
茜
もちろんその後僕がみつけて隠蔽した本人に問い詰めた
茜
するとその人は満面の笑みで謝ってきた
茜
謝罪の仕方も軽いもので
茜
誠意という言葉の欠けらも見当たらない
茜
その瞬間怒る事さえアホらしくなった
茜
その次に自分の周りの人はこんな人間しかいないのだと悟った
茜
親しき仲にも礼儀あり
茜
その言葉がこんな形で体現されるとはこの日まで思いもしなかった
茜
僕が求めたのは誠意ある謝罪
茜
内心がどうであろうと表でだす顔
茜
それくらいは誠意を見せて欲しかった
茜
けど、そんなことも出来ないやつだった
茜
それから僕は人に興味を持つことはなくなった
茜
そのたった一人のせいでほかの人間もきっと
茜
礼儀もなってない奴らしかいないと思ったから
茜
人に興味を持ったところで同じ目にあうなら
茜
最初から群れることをしなければいい
茜
それをあの歳で僕は悟った
茜
人に興味を持てなくなったのならば
茜
恋愛なんてもってのほかでしょ?
茜
茜
とまぁ、しょうもない理由なんだ
茜
僕が人に興味を持てない理由って…
茜
人は1度裏切られると長い時の中を
茜
疑心暗鬼の精神を持って生きていく
茜
酷くなれば人間不信にすらなる
茜
僕は後者に近くもなければ遠くもない
茜
そんな立ち位置かな
茜
それからというもの考え方もマイナスになって
茜
自分がいることで誰かを傷つける気がするから人付き合いは避けたんだ
茜
そのくせして恋愛相談なんかやってるんだから
茜
矛盾してて笑えるよね
美波
伊都町さん………
茜
あっ!
茜
別に同情はしなくていいよ
茜
こうなることを僕は望んでいたのかもしれないからね
美波
自分を変えたいとは思わなかったんですか?
茜
何度か考えたけどやっぱり怖くてね
茜
こう見えて僕メンタルそんなに強くないから
美波
もし、また変えたいって思った時
美波
その時は誰かを頼ってください
茜
うーん…
茜
難しいかもしれないな
美波
それこそ私でもいいです
美波
力になれるかそれは分かりません
美波
けど、こうやって話したくない過去の話を私には聞かせてくれました
美波
それだけ私は他の人よりは信頼されている
美波
そう私は解釈してます
美波
伊都町さん本人はそう思ってないかもしれないですけど…
茜
茜
まぁ検討してみるよ
美波
はい!
美波
では、私はこれで
美波
母に心配されてしまうので
茜
それじゃあね
茜
茜
美波さんに《糸》が見えた
茜
あの糸は僕に繋がっていた…
茜
美波さんの運命の人は僕なのか?
茜
となると柴崎さんの糸は僕にもう繋がってないんじゃ…
茜
もしそうなら彼女を自由に出来るかもしれない
茜
僕のためにあれこれ動いてくれて
茜
面倒だったろうけど
茜
これで人に迷惑をかけることは……