たしか、最初はトカゲの尻尾だった。
アヤが上履きからスニーカーに履き替えた途端、つま先がむずむずした。
なんだろうと思って脱いでみると、3センチほどの長さで切れたトカゲの尻尾が、ピンピンと跳ね回りながら飛び出してきた。
アヤ
驚いてひっくり返したら、トカゲの尻尾はそのままどこかに飛んでいってしまった。
男の子がイタズラしているのか、と思った。
だとすれば、こんなことをするのは同じクラスのケンに決まってる。
近所に住んでる幼馴染みで、小学校に上がる前からずっと知ってる。
全くあいつは、いつまでも子供っぽいイタズラばかりして。
そう思いかけて、気が付いた。
そうだった。
ケンは、もういないんだった。
1ヶ月ほど前に急に引っ越しが決まって、バタバタと転校していったのだ。
それからも、イタズラは続いた。
このイタズラが始まってから、スニーカーを履く前にちゃんと中を確かめるクセがついた。
くついれからスニーカーを取り出し、ひっくり返してよく確かめて履く。
アヤ
アヤは小さく溜め息をついた。
スニーカーを脱いでひっくり返すと、粉々になったセミの脱け殻が出てきた。
何もないって、ちゃんと確かめたのに。
なんだか気味悪い。
でもそれ以上に気分が悪かった。
だって、トカゲとかセミの脱け殻とか…男の子は喜ぶかも知れないけど、女の子には全然嬉しくない。
くついれに向かって呟いた。
アヤ
アヤ
次の日。
スニーカーを確かめる。
やっぱり何も入っていない。
でも、履いてみたらまた何か出てくるかも。
アヤはゆっくりスニーカーを履く。
つま先に何か固いものが当たった。
スニーカーを脱いでひっくり返すと、何か丸いものがコトンと転がり出た。
それは小さなビー玉だった。
そしてまた次の日。
スニーカーを確かめて、それからゆっくり履くと、またつま先に何かが当たった。
今日は何か柔らかいもの。
脱いでみると、たたんだ紙が出てきた。
折り紙だった。
かっこ悪いけど、一生懸命折った小さな折り鶴が1つ。
アヤ
誰の仕業かはわからない。
誰かの仕業なのは間違いない。
でも、なんだか思わず笑みがこぼれた。
誰かがアヤを喜ばせようとしているのだ、ということはうっすらわかってきた。
それに気づいてから、スニーカーを確かめるのが少し楽しくなった。
ある日のこと。
いつものようにスニーカーを確かめる。
空っぽ。
それからゆっくり履いて、脱ぐ。
このところ嬉しいものが続いていたけど、今日はちょっと違った。
スニーカーから出てきたのは、丸めた紙だった。
ちょっとがっかりしたけど、アヤはその紙を広げてシワを伸ばしてみた。
ざらっとしたメモ用紙の真ん中に、震える文字で小さく書いてあった。
【好きでした】
ちょっと右上がりのクセのある字は、忘れもしないケンの字だった。
その翌日の学級会で、先生は言った。
先生
先生
その日。
スニーカーには何も入っていなかった。
次の日も。
その次の日も。
その次の日も。
その次の日も…