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「なあ、聞いてんの?」

「何か喋れよ」

クラスのいじめっ子たちの 声が後ろから聞こえてくる

でも、私は振り向かなかった

振り向いたら、 余計に何か言われるから

私、花園 花(はなぞの はな)は 小さい頃からいじめを受けていた

花という名前なのに、 私はずっと下を向いてきた

学校の教室は 息ができない場所だった

笑い声がすると、よく肩が跳ねた

特に

男の人の声になると、 心臓が早くなる

声も出なくなり、身体が硬直する

私は逃げることも、 言い返すこともできず

ただ──耐えていた

そして私はいつしか

男の人が怖くなった

20XX年4月

群馬県・K市

花も今日から
高校生かー!

早いものねぇ

制服、似合ってるわよ

……ありがとう

でもまさか群馬の
高校に通うとはねぇ

驚いたよなぁ

合わなかったら、
我慢しなくて
いいからね

そうだぞ〜

俺なんか高校
卒業しなくても
ちゃーんと生きて
いけているからな〜!

あなたの場合留年して
問題を起こして退学
させられただけ
じゃないの

てへ

まったく

……でも、
無理しなくて
いいからね

わかってる

……

(今度こそ静かで、
穏やかな学校生活
送ろう)

(誰にも
踏まれたくない)

(でも……)

(私がこれから通う
高校は女子校……)

(男の人はいないし、
大丈夫……だよね……)

お?見えてきたぞ!

あら綺麗な
学校じゃない!

うわぁ……!

これから先、 どん底だった日々は終わって

新しい出会いが私を待っている

その時はまだ──

何も疑っていなかった

1年2組

周りはざわざわと 騒いでる中

私はひとり、机で 蹲っていた

(……え?)

(……なんで)

(なんで……)

男の人しかいないの?

周りの人はみんなリボンじゃなく ネクタイを締めていて

下はズボンを履いていた

私だけが赤いリボンで 膝丈のスカートだった

(うそ……!)

(どうして……!?)

私は机の中から受験時にもらった 高校のパンフレットを取り出す

そして私はあることに気づき 手が震えた

きょ……共学……か

しょ……

初年度……!?

私は大きな思い違いを していたらしい

パンフレットには 共学化初年度と書いてあり

その上には 今年から女子受け入れ と書かれていた

私は「女子受け入れ」の部分しか 見ておらず

「女子受け入れ」=「女子校」 という勘違いをしていたらしい

入学式当日にこれを知った私は 一気に天から地へ突き落とされた 気分だった

(嘘……でしょ)

(ゆ、夢だよね
きっと!)

(そうに違いない……!)

私は自分の頬をつねる

しかし、当然 現実は変わらない

(なん……で)

(どうして……)

視界が歪んでいく

男の人の笑い声、低い声、 そして視線……

息ができなかった

私の高校生活は

完全に詰んだ。

先生

お前ら〜
式が始まるぞー

「はーい」

「開式の辞。これより、 群馬県立蒼紡高等学校 入学式を執り行います」

「新入生の入場です。 拍手でお迎えください」

どんな子達が
入学したのかしら

楽しみだな〜

新入生が入場してくる

まずは1組だ

……あ、あら

男の子...…?

あれ、おかしいな

たしか花が受けようとした学校って女子校
だったよな。

え、えぇ……

1組は入場し終える。 1組は全員男子だ

あ、あら……?

「続きまして、2組の入場です」

おいまた男だぞ?

おかしいわね.....

あ!花よ!

お!

……

あらあの子
手足が一緒だわ

緊張してるのねぇ……

校長先生

えぇー本日ここに、新しい春を迎えた皆さんを、心から歓迎します。

校長先生

そして何より……

校長先生の言葉なんて 耳に入ってこなかった

男の人の匂いが漂ってきて 今すぐにでも帰りたい気分だ

校長先生

そして本年度より、本学は共学となり

校長先生

女子生徒一名を迎えることができました

(やっぱり……
私だけなんだ)

校長先生

ここに新たな歴史が刻まれ、新たな出会いの場となるよう祈っております。

 入学式が終わり、私は 教室に戻った

そしてすぐに 机に顔を伏す

……

今すぐにでもここから 逃げたい気分だった

先生

みなさんお疲れ様
でした

先生

ではホームルーム
の前に……

自己紹介して もらいましょう

……は?

(さ、最悪……)

自己紹介……

それは「私」という存在を 晒すのと同義だ

男性恐怖症の私からしたら それは地獄のようなもの

(帰りたい……)

伊集院瑛二

伊集院 瑛二です。
得意科目は数学と
化学と……

丸山元

丸山 元(はじめ)です!
好きな食べ物はカレーとオムライスとあとはね……

炎城寺大

炎城寺 大だ!
趣味はとにかく
走ることだぜ!!

白崎 蓮だ
……よろしく

藤井直人

ふ、藤井……直人です
よ、よろしく
お願いします……

先生

次の人ー

は……はい

私は教壇の上に立つ

クラスのみんなは物珍しいのか 一斉に私を見る

あぁ……この視線

昔のトラウマが蘇って来る

え……えっと

先生

名前、あと何か
一言

は、はい……

えっと……

花園花です
よろしくお願いします

私は聞こえるぐらいの小声、 そして早口で自己紹介を終えた

先生

はい、ありがとう
ございました

先生

あとの2人は……

先生

今日は来ていない
みたいだな

先生

じゃあこの機会
なんだし……

先生

隣の人と挨拶を
してください

(は……!?)

(さっきの
地獄を味わえと…!?)

(無理無理無理!
絶対.....!)

1対1の会話は みんなの前で自己紹介よりも 地獄だ

周りを見ていると みんな気軽に 話しかけている様子

知り合い同士なのか、それとも 男の人というのは初対面でも 気軽に声をかけれる生き物なのか

私はチラッと横を見る

水色の髪、むすっとした横顔、 着崩した胸元のネクタイ

明らかに不良だ

でも私はこのままだと 前に進めないと思い 声をかけることにした

……

あ、あの……

あ?

(ビクッ)

え、えっと……

私、花園……花……

よ、よろしくね……

……

白崎蓮だ。
よろしく

蓮は軽く挨拶すると すぐに前を向いた

(こ……怖……!!)

(これだから男の人は
苦手なのよ……)

その帰りの車内にて……

まさか元男子校だった
なんてな!

あなた女子校に入るんじゃなかったの?

え、えっと

あのあと考えて
共学の高校に
変えたの……!

もう〜早く言ってよね
びっくりした
じゃないの

あはは、ごめん……(笑)

でもいいじゃないか

え?

だって……

学校のマドンナに
なれるチャンス
なんだぞ!?

もう〜あなた
またそんなこと
言って〜

わっはっはっは

ところで花、
友達はできたの?

え?

あーえっと……

できたよ!

よかったわ〜

友達1人でもいれば
安心だわ〜!

あはは……

(友達……か)

(できるわけないよ……)

(私には……縁のない
ことだし……)

これからの学校生活 どん底な未来しか見えない

入学初日に退学したい気分だ

……でも

父と母には 心配かけたくない

そのためにも私は……

あの学校に慣れるしかない。 そう思った──

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