眠ろうとして
暗い天井を見上げる
自分の上には
なにやら塩のようなものが 降っていた。
サラサラと音をたて
弛緩しきったこの体に
降り落ちてくる。
布団はどこへ消えてしまったのか
今やその塩だけが
体を厚く覆っていた。
塩釜焼きか
と思い至り
それは旨そうだと一人で頷く。
焼かれるのならなおのこと
眠ってしまえば楽なのに
頭は頑として
睡魔の気配を拒絶している。
やれやれ
これでは食べられたあとですら
意識が残ってしまう。
深く息を吐く。
そもそも
目が覚めているところを
食べられる趣味はない。
捌かれるにしろ
丸焼きにしろ
食べられる時には
眠っている方が いいに決まっている。
むしろそれは
賞味者への
最低限の礼儀だ。
誰だって
食べているところを
下から見上げられ続けるのは
不快だろう。
さて、と塩から目を背け
頭の下に敷かれているものへと
視線を移した。
後頭部に眼球を移動させるのは
慣れていない。
そのせいか
視神経が脳髄に 絡んでしまうのを感じた。
賞味者が食べるとき
頭まで開いてくれれば
ほどく手間がなくていいのだが。
それはともかく
頭の下に敷かれているものは
チョコレートのようだ。
開いた眼球に触れた部分が
幸せなほどに甘い。
しかし
塩釜焼きにチョコレートを 合わせるとは、
なんともふざけた料理人だと
失笑が出る。
とは言うものの
これは賞味者自身からの リクエストかもしれない。
可能性がある限り
こういった嘲りは控えるべきだ。
好き好んで自分を食べて くれようとする人物を
偏見で見下してはいけない。
きっと素晴らしい味がするのだろう。
例えば
古書籍をオリーブ油で揚げて
分解したメモリディスクで 和えたような。
例えば
キャンディをシルクで包んで
キリストの粉をかけたような。
例えば
小鹿を食べた女の子を
生クリームでディップするような。
きっとそんな味がするんだろう。
そこまで考え
ふと マナー違反が頭に浮かぶ。
どうせ目が覚めてしまっていて
食べられたあとも 目が覚めているのなら
味の感想を直接聞けば 早いではないか。
もちろん賞味者は 嫌な顔をするだろう。
自分の評価は下がるだろうが
そんなことは別に構いはしない。
その評価を知る人の舌には
少しばかり苦くなるだけだ。
そんな中にも
苦味を好む人もいるだろう。
自分はにんまりと笑んだ。
コメント
3件
タイトルだけで見るなら、この食用人間は不死身と... めちゃくちゃ食料問題に貢献してるなぁ!!(そこじゃない) でも俺なら食べられても意識があるのは嫌だなぁ(´;ω;`)