テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
管野アリオ
847
#大人ロマンス
桃下結衣
320
#ロマンスファンタジー
Jasmine
1,008
リビングのドアが開いた。
タオルで首元を拭いながら、陸はソファーに腰を下ろした。
日奈子
日奈子
陸
陸が短く頷いて、前髪を乱暴にかき上げた。
伏せられた長い睫毛の下から覗く、鋭い双眸。水滴が一筋、顎を伝う。
その一連の仕草が色っぽくて、日奈子は思わず視線を逸らした。
日奈子
日奈子
そんな日奈子の心情など知らない陸は、テーブルの上に置かれたドライヤーに手を伸ばし、プラグをコンセントに差し込んだ。
スイッチを入れた瞬間、ゴォ、という轟音が鳴り響く。
麦がびくっと驚き、日奈子の胸元にしがみついた。
耳をぺったりと伏せて全身を震わせている。
陸が申し訳なさそうに電源を切った。
陸
陸
猫の聴覚は人間の三倍以上と言われている。
激しい機械音は苦手なはずだ。
日奈子は麦を抱きしめながら優しく撫でる。
日奈子
日奈子
日奈子はすぐさま、柔らかいタオルで麦をくるんだ。
外界の音を和らげる防音壁を作るかのように。
それでも陸は、ドライヤーの電源を付けようとはしなかった。
プラグを抜き、そのまま放置する。
無理に乾かすことを諦め、濡れたままの髪をかき上げたその仕草にはどこか潔さがあった。
日奈子
麦をタオルごと陸に手渡す。
陸はためらいなく受け取り、慎重に膝の上に乗せた。
日奈子が差し出した義弟の服は、やはり185センチの陸には少し窮屈そうだった。
ツンツンに短いスウェットの袖口から覗く、外科医らしい大きくて引き締まった手首。
無理に男物の服に体を押し込んでいる彼の佇まいには、どこか近寄りがたい『雄』の気配が漂っている。
――タオルの隙間から、麦がぴょこんと顔を出した。
怯えた様子で陸を見上げていたが、彼の大きな手が顎の下をそっと撫で始めると、すぐにとろんとした表情になった。
喉がゴロゴロと幸せそうに鳴る。
日奈子
日奈子は苦笑しつつも羨ましさを覚える。
濡れた髪のまま自分をじっと見つめてくる陸の、熱を孕んだ視線から逃げるようにリビングを後にした。
・ ・ ・
――浴室のドアが閉まる音が聞こえた。
静まり返った室内に、微かな水の音が届き始める。
日奈子がシャワーを浴びている、その生々しい響きを鼓膜に受けながら、陸は膝の上で丸くなる麦の背中を優しく撫でた。
――不意に脳裏をよぎる、あの夜の記憶。
あの時は、泥酔した日奈子をただ介抱するだけのつもりだった。
だが酒に溺れ、ベッドで酔い潰れている彼女の無防備さと、潤んだ瞳で必死に縋り付いてきた愛らしさに、陸の理性は一瞬で消し飛んだのだ。
触れた肌の吸い付くような柔らかさ。
掠れた声で何度も自分の名前を呼び、腕の中で、瞳を潤ませて小さく喘いでいた。
あの熱い夜の感触が、外科医として冷静であるはずの陸の指先に、今も生々しく蘇る。
日奈子は、何も覚えていないと言った。
だからこそ今日、素面の彼女の部屋に無理やり上がり込み、隣で眠るということに対して、陸の胸の奥には形容しがたい不安と期待が渦巻いている。
もし、あの夜の全てを思い出してしまったら、彼女は怯えて逃げ出してしまうのではないか。
内気で、いつも周囲の顔色を窺って無理をしてきた彼女を、これ以上追い詰めるような真似はしたくない。
だけど、あの壊れそうなほど華奢な身体を、他の誰の目にも触れさせたくもない。
ずっと一人で孤独を抱えて生きてきた彼女の『聖域』に自分だけが入り込み、そのすべてを過保護的に甘やかして独占したいという衝動が、どうしても抑えきれなかった。
陸
誰もいないリビングで、彼女の愛称を零してみる。
やがて水音が止まり、静寂が戻ってきた。
服を着ていればずいぶん大人しそうに見える彼女が、シャワーを浴びてどんな顔で戻ってくるのか。
陸は濡れた前髪を再び乱暴にかき上げて、冷淡な切れ長の瞳の奥に、じわじわと抗えない熱を帯びさせていった。
コメント
1件
読了したよ〜!📚💕 今回、陸くんの心情がすごく繊細に描かれてて胸がギュッとなった…!あの夜の記憶がフラッシュバックするところ、「覚えてない」って言われた日奈子ちゃんへの複雑な想いが切なくて。でも「独占したい」って衝動が抑えきれない感じ、滾るね…!!🔥 麦くんがびっくりしてしがみつく可愛さも最高だったし、陸くんがドライヤー止めた優しさにグッときたよ〜🥺💕 次も楽しみにしてるね!⋆♡