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――――七瀬がこの場を去った直後。 後部座席から、鋭い視線が突き刺さる。
やれやれ、と力なく笑い返した。
早坂
かなえ
その煮え切らない様子に苦笑い。
何を言いたいのかなんて嫌でもわかるけど、こればかりはどうしようもない。
早坂
早坂
もし七瀬が「助けてほしい」と、俺にそう縋ってくれたなら。 多少強引でも、2人の間に割り込んで戒めるのに。
でも七瀬はそうしなかった。 他人を巻き込みたくないのだろう。
責任感が強いのは昔から知ってるし、尊敬してる部分でもあるけれど。 今回ばかりはいささか、七瀬が無理し過ぎている気がしなくもない。
早坂
所詮、俺は部外者に過ぎない。
そしてこれは当事者達の問題だ。
その本人達が2人で解決すると決めた以上、部外者が無神経に介入できる立場にない。 注意を促すことはできても、止めることはできない。
自分なりに考えて導き出した結論。 それが正しい判断だったのかはわからない。
それでも、出来うる限りの助言や忠告はしたつもりだ。
けれど鈴原は不満そうだ。
かなえ
かなえ
かなえ
早坂
かなえ
かなえ
早坂
そう言いたい気持ちを抑え込む。
年齢的にも精神的もまだ若かったら、あるいは自分の本能のままに行動していたかもしれない。
彼女を奪いたいが故に、あの手この手で画策して。 七瀬の隣のポジションを確保しつつ、弱っている彼女を励まして、弱味につけこんで。
そんな風に、やり方が汚くても努力していたかもしれない。
けれど26歳を迎えた今、物事を俯瞰的に捉えることが出来るようになった。 後先のことを考えて行動するようになった。
感情より、理性を優先してしまう。
それらは決して悪いことではないが、臆病になったと言われれば否定はできない。
なんにせよ、俺が介入すれば泥沼になる予感、そうなれば七瀬の身が危うくなる可能性があるならば。 もう少し様子を見た方がいいと判断してしまうのも致し方なかった。
かなえ
早坂
早坂
かなえ
早坂
かなえ
かなえ
早坂
俺の返答に、鈴原は黄色い声を上げた。
ぱっと表情が輝いて、素直に喜ぶ姿が微笑ましい。 七瀬達がこの子を可愛がる理由がよくわかる。
鈴原自身も、七瀬のことを慕っている。 七瀬が自分の理想だと、事あるごとに、そう口にしている事も知ってる。
早坂
かなえ
かなえ
早坂
それは初耳なんだが。
かなえ
早坂
かなえ
かなえ
かなえ
かなえ
早坂
かなえ
早坂
かなえ
早坂
後輩から恋愛の応援をされるのも、なかなか気恥ずかしいものがあるが。
すっかりにやけている鈴原をミラー越しに見届けて、エンジンをかけた。
早坂
早坂
かなえ
早坂
早坂
かなえ
焦ったような彼女の声に眉を寄せる。
もう一度ミラーに視線を戻せば、車窓にべったり額をくっつけている鈴原の姿がある。
その視線の先は、七瀬の住むマンションだ。
早坂
かなえ
早坂
かなえ
かなえ
早坂
その発言の意味を想像して背筋が冷えた。
早坂
早坂
かなえ
かなえ
かなえ
かなえ
早坂
ハンドルを握る指先に力が籠る。
鈴原の視線を追うように、マンションに目を向けた。
七瀬の部屋は既に明かりがついている。
カーテン越しに2人分の影は、今は映っていない。
けど鈴原が嘘をつくとは思えないし、だとしたら、青木が先に到着して、部屋の前で待っていたんだろう。
七瀬の部屋の入室を許された男が俺以外にもいる、その事実を目の当たりにして複雑な気持ちになる。
まあ、青木だと確定したわけじゃないが。
かなえ
早坂
かなえ
早坂
早坂
かなえ
早坂
早坂
かなえ
……そんなの、めちゃくちゃ気になるに決まってる。
でも、だからってどうしろというのか。
部屋に乗り込むわけにもいかないし、そもそも青木だという確証もない。
スマホに視線を移す。 七瀬からはさっきメッセージを貰った。
以降は何の連絡も来ていない。 本人も話し合いが終わったら連絡すると言ってくれたし、何かしら進展があれば、報告くらいはしてくれるだろう。
――――が、ここで想定外の事態が起きた。
かなえ
早坂
かなえ
早坂
早坂
慌てて呼び止めたが遅かった。 勢いよくドアを開け、鈴原は颯爽と飛び出していく。
そのエネルギーは一体どこから来るのか。
遠ざかっていく背中を見て、また重いため息が漏れた。
早坂
背もたれに体重をかけ、溜まった疲労を吐き出すように吐息を漏らす。 最近、ため息をつく回数が増えた気がする。
あまり良くない傾向かもしれない。 精神的にもう若くないんだな、と実感する。
早坂
早坂
最近になって気付いたことがある。
それは俺自身の変化。
好みや嗜好が変わってきたように思う。
服の好みが変わった、お金の使い方が変わった。 衝動買いをやめた、物の考え方が広がった。
それこそ挙げればキリがない。 様々な経験を積み、人間性に深みが増したのかもしれない。
あと、もうひとつ。 結婚願望が出てきた。
それこそ10代、20代前半の頃には無かった願望だ。
◇
――――結婚をして、家庭を持つこと。
数年前までは考えもしなかった思想。
そういうものに縛られたくない、まだ若いのだから遊びたい。 当時はそう思っていたし、その主張が許される年齢だった。
けれど最近は違う。 仕事や将来のことを考えてしまう。
若い頃は遊びが最優先だったが、年齢を重ねるとともに優先順位が移り変わっていく。
好きな人と結婚して、落ち着くべきところに落ち着きたい。そんな思いが生まれ始めている。 家庭を持つ友人が増えて、周りの変化に影響されたのかもしれない。
自分を支えてくれる奥さんがいて、共に育てて成長を見守っていく子供がいて。
毎日共に飯食って、休日は家族で出掛けたりして。
平凡な暮らしでもいい、そんな家族団らんな光景に憧れを抱くようになった。 そういう幸せのカタチもありなのかと。
早坂
3年が経って諦めようとした想いは、結局熱が冷めることなく4年が過ぎた。
長年の片想いというのは精神的な疲弊を伴う。 26にはなかなかキツすぎる現実だ。
やっぱり歳か、なんて考えていた時。 スマホの着信が鳴った。
早坂
意外と早く連絡がきたことに驚く。
車載ホルダーからスマホを外し、通話ボタンを押した。
早坂
耳に押し当てても何も聞こえない。
かけ直そうとして、ふと思い止まった。 鈴原が部屋に到着したのだろうか。
早坂
だとしたら、また七瀬から着信が入るだろう。 何かあれば、鈴原からも連絡が来るだろうし。
早坂
そう判断して、スマホを助手席に置いて瞳を閉じた。
・ ・ ・
・ ・ ・
かなえ
かなえ
早坂
突然の怒声にビクッと体が跳ねた。
謎の打撃音に驚いて目を見開けば、車窓をバンバン叩いている鈴原の姿がある。
一瞬、目を白黒させる。 車用時計を見れば5分が経過していた。 いつの間にかうたた寝していたらしい。
窓を開ければ、鈴原は勢いよく身を乗り出してきた。
早坂
かなえ
切羽詰まった様子に眉をひそめる。
俺の言葉を遮ってまで息巻く表情は、数分前に車から飛び出していった表情とはまるで違っていて。
早坂
かなえ
……その一言に、不穏な胸騒ぎを覚えた。
早坂
この子がこんなに取り乱している姿は初めて見る。
今にも泣き出しそうなほど目が充血していて、血の気が引いたように顔が真っ青だ。
明らかに、何かに怯えているような表情。 既に涙声だ。
かなえ
マンションから一目散に走ってきたのか、呼吸も荒い。
尋常ではないその様子に、動悸が激しく鳴る。
早坂
かなえ
かなえ
早坂
ひとつひとつ確認すれば、鈴原も苦し気に頷く。
乱れた呼吸を静めながら、彼女は口を開いた。
かなえ
かなえ
かなえ
――――バンッ!!
乱暴にドアを開け放ち、マンションへと走り出す。考えるよりも先に体が動いていた。
エレベータ―を待つのも煩わしくて、階段を勢いよく駆け上がる。
頭の中はただ、七瀬の無事を願う思いと、後悔の念で埋め尽くされていた。
"――――何かあったら連絡しろ"
そう伝えたのは、俺なのに。 だから七瀬は電話をくれたのに。
早坂
最後の最後で、俺は判断を誤ってしまった。
コメント
1件
おお、第7話…! これはヤバい展開だわ。早坂さん、理性的すぎて逆にツラい立場に立たされてるなあと思いながら読んでたんだけど、まさか最後の最後で「判断を誤った」って後悔する流れになるとは。鈴原の「助けて!」で一気に心臓掴まれた。七瀬さん無事でいてくれ…次回が待ちきれねえ🔥