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#ドラマ
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家の前に着いた瞬間
凪の足が止まった。
玄関のドアはいつもと同じ。
形も色も変わらない。
なのに、胸の奥がぎゅっと縮む。
雨宮 凪
深呼吸をすると、 手が少し震えているのが分かった。
ゆっくり、ゆっくりドアを開ける。
きしむ音がやけに大きく聞こえた。
玄関の空気は、冷たかった。
ただの温度じゃなくて
“空気そのもの”が冷えている みたいな感覚。
リビングの方から、 小さくテレビの音が聞こえる。
雨宮 莉乃
姉・莉乃の声だ。
低く、気だるそうな声。
そのすぐ後ろで、 兄・直人の短い笑い声。
凪の背中に、 ひやっとした汗が流れた。
雨宮 凪
見なくても分かる。
声のトーンで分かる。
家の空気で分かる。
ここでは
“空気を読む”ことが 生きるためのルールだった。
靴をそっと脱ぐ。
音を立てないように。
気づかれないように。
でも——
雨宮 莉乃
リビングから莉乃の声が飛んだ。
まるで獲物の気配に 気づいたみたいな声。
凪の心臓が跳ねる。
雨宮 莉乃
雨宮 莉乃
雨宮 莉乃
声は刺すように冷たい。
直人の声も続く。
雨宮 直人
雨宮 直人
言葉だけで、 胸の奥の何かがずしんと沈む。
凪は小さな声で返す。
雨宮 凪
その瞬間
空気がねっとり重くなるのを 凪は感じた。
雨宮 莉乃
雨宮 直人
嫌味でもなく
怒鳴りでもなく
ただ“普通に”言われるその言葉が 一番きつかった。
ここでは
誰も凪を助けてくれない。
誰も見ていない。 誰も気づかない。
家の中の夕暮れは静かで
その静けさが
凪にとって 何より恐ろしいものだった。
雨宮 凪
胸の中で静かにこぼれた言葉は
誰にも届かないまま消えていった。