太田豊太郎
今朝は日曜なので家にいるけれど、心は浮かれてこなかった。
太田豊太郎
エリスは寝込むほどではなかったが、
太田豊太郎
小さなストーブのそばで椅子に座って口数は少なかった。
太田豊太郎
しばらくして台所にいたエリスの母が、
エリスの母
手紙ですよ、あんたに。
太田豊太郎
郵便で届いた手紙を持って俺に渡した。
太田豊太郎
見れば見覚えのある相沢の筆跡で、
太田豊太郎
切手はプロシアのもので、消印にはベルリンとある。
太田豊太郎
不思議に思いつつ開けてみると、
相沢謙吉
急なことであらかじめ知らせることが出来なかったが、
相沢謙吉
昨夜ここに到着した天方大臣について自分もやってきた。
相沢謙吉
天方伯がお前に会いたいとおっしゃっているので早く来い。
相沢謙吉
お前の名誉を回復するのも今こそだ。
相沢謙吉
急いでいるので用事だけで失礼する。
太田豊太郎
読み終って呆然としている顔を見て、エリスが言った。
エリス
故郷からの手紙ですか?
エリス
……っ! まさか悪い知らせでは?
太田豊太郎
彼女は玲の新聞社からの報酬に関する手紙と思ったのだろう。
太田豊太郎
いや、気にしなくていい
太田豊太郎
君も知っている相沢が、
太田豊太郎
大臣といっしょにこっちに来て俺を呼んでいるんだ
太田豊太郎
急ぐというから、今から行ってくるよ
エリス
まあ!
太田豊太郎
かわいい一人っ子を使いに出す母親もここまで気を使わないだろう。
太田豊太郎
大臣に会うこともあるだろうと思うからだろう、
太田豊太郎
エリスは病気をこらえて起き、
太田豊太郎
シャツも極めて白いものを選び、
太田豊太郎
丁寧にしまっておいた、二列ボタンのフロックコートを出して着せ、
太田豊太郎
ネクタイさえ俺のために自ら結んでくれた。
急な友人の来訪は、豊太郎に何をもたらすのか。続く。