太田豊太郎
この間俺はエリスを忘れてはいなかった、
太田豊太郎
いや、
太田豊太郎
彼女は毎日手紙をよこすので、忘れようがなかった。
エリス
あなたが旅立った日には、
エリス
いつになく独りで燈火に向かわなければならない物憂さから、
エリス
知り合いのところで夜になるまで語り明かし、
エリス
疲れるのを待って家に帰り、すぐに寝ました。
エリス
次の朝目覚めたときは、
エリス
なお独り後に残ったことが夢ではないかと思いました。
エリス
起きたときの心細さ、このような思いは、
エリス
生活費に苦しんで、今日の食べるものがなかったときにもしなかったのです。
太田豊太郎
これが彼女の第一の手紙のあらましである。
太田豊太郎
またしばらくしてからの手紙は、
太田豊太郎
非常に思い迫って書いたようになっていた。
太田豊太郎
その手紙は、
エリス
いいえ
太田豊太郎
という字から始まっていた。
エリス
いいえ、
エリス
あなたを思う心の深さを今こそ知りました。
エリス
あなたは故郷に頼れる親族はいないとおっしゃるので、
エリス
この地でよい収入の手段があればとどまりなさらないこともないでしょう。
エリス
また、私の愛でつなぎ留めないではおきません。
エリス
それもかなわず、東に帰りなさるならば、
エリス
親と共に行くのは簡単ですけれど、これほど多額の旅費をどうやって得ましょうか。
エリス
どんな仕事でもしてこの地に留まって、
エリス
あなたが世に出なさる日をまとうと常に思っていましたが、
エリス
しばらくの旅だと旅立ちなさってからこの20日ばかり、
エリス
別れの思いは日に日に強くなっていくばかりです。
エリス
離れるのは一瞬の辛さだと思っていたのは間違いでした。
エリス
……私の体が普通でないことがしだいにはっきりとしてきました。
エリス
たとえどんなことがあっても、私を決して捨てないでください。
エリス
母とは激しく争いました。
エリス
けれど、私がかつてとは違って決意が固いのを見て、
エリス
母は折れてくれました。
エリス
私が東に行くときは、
エリス
シュチェチンあたりの農家に、遠い縁者がいるので、
エリス
そこに身を寄せようと言いました。
エリス
書き送ってくださったように、大臣に重用されていらっしゃるならば、
エリス
私の旅費はきっと何とかなるでしょう。
エリス
今はただ、
エリス
ひたすらあなたがベルリンにお帰りになる日を待つのみです。
エリスから届く激しい手紙に、豊太郎は……。続く。







