ユキ
隕石が落ちてくるまであと30分
ヒロト
あと30分で俺たちは死ぬわけだ
ユキ
はあ、死にたくない
ユキ
どうにかしてよ
ヒロト
どうにかしてと言われてもなあ
ユキ
なんでそばにいないの?
ヒロト
ん?
ユキ
こういうときになんで私のそばにいないのよ
ヒロト
仕方ないだろ
ヒロト
今日お腹痛かったんだから
ユキ
お腹痛いのなんて我慢できるじゃん
ヒロト
我慢できない痛みだったの!
ユキ
ヒロトって昔からそう
ユキ
忍耐心がないよね
ヒロト
例えば?
ユキ
んー
ユキ
海に行ったときに素足で砂踏んで
ユキ
あっつい!とか叫んでそのまま帰ったこととか
ヒロト
なんだそれw
ユキ
は?
ヒロト
あ、うん、そんなこともあったっけ
ユキ
あったっけじゃないでしょ?
ヒロト
はい
ユキ
行列のできるお蕎麦屋さんに並んだときも
ユキ
列が一歩も進まない内に帰ったし
ヒロト
えぇ……
ユキ
なに?
ヒロト
あ、うん
ヒロト
そんなこともあったっけな
ユキ
だから、あったっけじゃないでしょ!
ヒロト
そんな細かいこといちいち覚えてないんだよ!
ユキ
細かいだぁ?
ヒロト
もっとさ
ヒロト
わかりやすい例っていうか
ヒロト
俺でもうんうん頷ける話をしてくれないかな
ユキ
こっちはそのつもりで話してるんだけど
ユキ
ヒロトがうんうん頷いてくれないんでしょうが
ヒロト
……さいですか
ヒロト
じゃあ、いいよ
ヒロト
こっちだって言ってやる
ユキ
なにを言うってのよ
ヒロト
ユキへの文句
ユキ
上等
ヒロト
ユキは、そうだな
ヒロト
ガサツ
ユキ
いまさらぁ?
ユキ
そんなの最初からわかってたでしょうよ
ユキ
その上で私と付き合ったんじゃないの?
ヒロト
理解することと許容することはまた別だろ
ユキ
いままでずっと我慢してきたって言いたいわけ?
ヒロト
うん、そうだな
ユキ
なら言ってよ
ユキ
ガサツなとこ直せよって
ユキ
思ったときにその都度注意してよ
ヒロト
そんなん言いにくいじゃん……
ユキ
なら我慢しろ
ヒロト
だから、我慢してきたんじゃん!
ユキ
なんで他のことだと全然我慢できないくせに
ユキ
私のことだとそんな我慢できるのよ
ヒロト
そんなん好きだからに決まってんだろ
ユキ
うるせえ!!
ヒロト
うるせえ!?
ユキ
好きなら私だけでも救ってみせろ!
ヒロト
だから、それは無理だって……
ユキ
あー、もうなんでこんな男が
ユキ
人生最後の恋人になっちゃったんだか
ヒロト
ひどっ
ヒロト
俺だってお前が最後の恋人でガッカリだよ!
ユキ
私の方がガッカリだわ!
ヒロト
なにがガッカリか言ってみろよ!
ユキ
もっと包容力があって
ユキ
お金持ちで
ユキ
イケメンで
ユキ
体臭がパイナップル臭くない人を最後の恋人にしたかった
ヒロト
パイナップル?
ユキ
えっ、ヒロト自分で気付いてないの?
ヒロト
パイナップル臭いの?俺
ユキ
ヤバイよ
ユキ
歩くパイナップルみたいな生き物だよ
ヒロト
うそーん……
ヒロト
でも、よしんば俺がパイナップル臭いとしても
ヒロト
パイナップル自体いい香りなのでは?
ユキ
いやー、どうかな(苦笑)
ヒロト
腹立つ笑い方するなぁ……
ヒロト
他にはなんかある?
ユキ
他って?
ヒロト
俺のその
ヒロト
嫌いなとこっていうかそういうの
ユキ
他は特に
ヒロト
あそう
ユキ
あとは後頭部に白髪が集中してておっさんぽいとことか
ユキ
耳たぶから時々長い毛が生えてるとことか
ユキ
下唇だけちょっと分厚いとことか
ユキ
それくらいかな
ヒロト
結構あるじゃん……
ユキ
あーもう、そんなんどうでもいいから
ユキ
早く私を助けろってばー
ヒロト
だから、それは無理!
ユキ
無理じゃねーよ!
ユキ
いまからでもこっちに来て
ユキ
私を隕石から守る盾になるくらいの気概を見せてみろよ!
ユキ
男だろ!
ヒロト
そんなん言うならな!
ヒロト
お前こそ俺の盾になってみろっつーんだよ!
ユキ
うわ、逆ギレかよ!
ヒロト
なにが逆かもわかんねーよ!
ヒロト
男が女を守らなきゃいけない法律なんてないんだぞ!
ユキ
いやー、そこまで行くと清々しいほどのクズですね、ヒロトくん
ヒロト
うるせえ!
ヒロト
俺のために
ヒロト
死んでみろ!
ユキ
お前が死ね!
ユキ
私のために死ね!
ヒロト
お前が死ね!
ユキ
このままほっときゃ勝手に死ぬわ!
ヒロト
じゃあそのまま死ね!
ユキ
お前もな!
ユキ
……ふふ
ユキ
なにこれ
ヒロト
……なんだろうね
ヒロト
まあ、こんなもんでいいか
ヒロト
あとはこのスマホを袋に入れて密閉して