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#ドラマ
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食卓には、湯気と いい匂いが広がっていた。
けれど凪の胸の奥は、 冷たいままだった。
凪の母
お母さんが明るく言う。
凪は席につき、ぎこちなく箸を持った。
向かい側には 長男の光希と長女の希空。
その隣に——
さっきまで凪を罵っていた
莉乃と直人が
“何もしていない良い子の顔”で 座っていた。
莉乃・直人 「いただきます!」
元気な声をそろえる2人。
雨宮 凪
凪は心の中でつぶやく。
家族の会話は和やかだった。
凪の母
お母さんが子どもたちに 順番に聞いていく。
雨宮 直人
雨宮 莉乃
直人と莉乃は、自然な声で答える。
嘘みたいに自然で
凪でさえ“本当かも”と 思いそうなほど。
凪は視線を落としたまま、 小さな声で答える。
雨宮 凪
その瞬間
莉乃と直人が、 ほんの一瞬だけニヤッと凪を見た。
お母さんや上の兄姉には 見えない角度で
“わかってるよね?黙っとけよ”と いう冷たい合図。
胸がどくん、と跳ねる。
手が少し震える。
希空がその震えに気づいた。
雨宮 希空
優しい声。
優しいまなざし。
凪は慌てて手を引っ込めた。
雨宮 凪
言った瞬間
自分でも苦しいのがわかった。
そのやり取りを、 莉乃と直人は黙って見ていた。
表情はにっこりしたまま。
誰にも怪しまれないように。
雨宮 凪
ほんの些細(ささい)な仕草
些細な言葉。
それだけで凪は息を詰めてしまう。
夕食が進むほどに
家族の明るい声と
凪の胸の中の重さは 反比例していった。
雨宮 直人
直人が唐突に、お皿を 凪の方へ押しやる。
優しいふりをして。
雨宮 莉乃
莉乃も笑顔で差し出した。
——偽りの優しさ。
光希と希空は
2人が凪に優しくしている姿に
安心したように笑った。
雨宮 光希
光希が言う。
その言葉が凪には一番辛かった。
雨宮 凪
喉が固まって声が出ない。
笑顔を作ろうとしたけど、 上手く作れなかった。
箸の先が少しぶれて、 皿に“カチン”と音を立てた。
その小さな音にすら
凪の心臓は大きく跳ねた。
夕食の席は和やかだった。
表面だけは。
けれど凪の心の中でだけ
冷たい地獄が静かに息をしていた。
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