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管野アリオ
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Jasmine
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久しぶりに読んだわー、第10話。水族館デートの余韻が切なくて、でも陸が「泊まっていいか」って言い出したシーンは心臓止まるかと思った。 麦ちゃんへの「好きだ」「見たい」の即反応が陸のギャップ炸裂で最高すぎる。猫撫でてる時の緩んだ表情とか、あの人本当に油断ならないわね。でも弟の服持ってきた時の一瞬の空気の変わりようはちょっと背筋冷えた……この距離感、丁寧に描かれてるなって思った。次の展開が気になる🔥
水族館を後にした車内は静かだった。
車窓の外を流れる灯りが現れては消えていく。
水中トンネルで優雅に泳ぐ魚達、青い水槽の中で揺らめくクラゲ、ペンギンパレードの愛らしい行進――今日の出来事が日奈子の脳裏を駆け巡る。
運転席の陸は無言だった。
エンジン音の規則正しい音だけが車内を満たしている。
彼の横顔を盗み見ると、深い思索に耽っているようにも見えた。
日奈子
外科医という理知的な職業でありながら、時に直情的な一面を覗かせる。
出会った当初は取っつきにくい印象だったが、一緒に過ごすうちに、そのギャップが魅力的に感じられていた。
日奈子は膝の上できつく拳を握りしめる。
陸と過ごした半日は本当に楽しかった。
でも一方で、二日前の出来事を思い出すと胸が痛む。
酒に溺れた自分が犯した過ちと、それを受け止めようとする陸――複雑な感情が絡み合う。
マンションに着くと、陸は駐車スペースに車を滑らせた。
エンジンを切って鍵を抜くと、何も言わずに日奈子側のドアを開ける。
陸
陸
淡々とした声だ。
けれど、その一言に宿る優しさは確かに感じ取れる。
日奈子は軽く礼を言って車を降りた。
エントランスホールでエレベーターを待ち、階数ボタンを押す。
閉鎖空間での二人きりは息が詰まりそうだった。
ランチや水族館にいた時は、沈黙も全然平気だったのに。
今はどこか甘い緊張が、二人の空気を張り詰めている。
日奈子はそっと陸を横目で見た。
微動だにせず、背筋を伸ばしたまま立っている。
日奈子
けれどどんな言葉を選べばいいのか分からない。
結局何も会話することもなく、エレベーターが日奈子のフロアに到着し、扉が開いた。
部屋の前で立ち止まると、陸も足を止める。
陸
ポケットに手を入れたまま、陸が低い声で言った。
心配してくれているのだろうか。
日奈子は少し驚きながらも、感謝を込めて頷いた。
日奈子
日奈子
日奈子
素直な気持ちを伝えたつもりだ。
しかし陸は無反応だった。
視線が廊下の床に落ちて、また日奈子に戻る。
一瞬の沈黙があった後、陸がぼそりと呟いた。
陸
日奈子は思わず息を呑んだ。
まさかの申し出に頭が真っ白になる。
彼はあの夜、酒に酔った勢いで身体を重ねた相手だ。
その人とまた一夜を共にする――容易く了承できるはずがない。
日奈子
戸惑いを隠せない日奈子に対し、陸は目を細めて返事を待つ。
プレッシャーを与えるわけでもなく、ただ静かに待っている。
陸
その言葉に嘘はないように感じられる。
でもその一言を告げるのに、彼の中で相当な葛藤があったはずだ。
日奈子はその意思の堅さを読み取って言葉に詰まる。
日奈子
日奈子
日奈子の返答に陸は小さく息を吐く。
安堵したような、それでいて責任を取る決意を固めたような重たい呼気だった。
陸
日奈子
陸
低く、静かな声。
反論の余地がない。
しかし乱暴な要求ではない。
日奈子が自らの意思で招き入れることを求めている。
日奈子
日奈子は躊躇いがちに陸を見上げた。
日奈子
陸
日奈子
陸の目が微かに光った。
予想以上の速さで反応してきた。
陸
陸
その即答ぶりに日奈子は目を見開く。
平気かと問うたら、即座に好きと返ってきた。
その反応速度とズレた返答で、彼が猫好きなのだとわかる。
日奈子
猫アレルギーへの配慮と警戒から聞いてみたら、逆に食いつかれて動揺する日奈子。
不安はあるが、断れない圧力に屈服しそうになる。
以前として陸は返事を求めない。
ただ日奈子の選択を静かに待っている。
その毅然とした態度に圧倒されつつも、やがて日奈子は諦めたように小さく息を吐いた。
日奈子
日奈子
日奈子が鍵を開け、先に部屋に入る。
後ろから陸が続いて玄関に入った。
靴を丁寧に脱ぎ揃え、几帳面に玄関マットの位置まで整える仕草が目に留まる。
その瞬間――とたとたと、小さな足音がリビングの奥から聞こえてきた。
麦
現れたのは、雪のような白い毛並みに、ほんのり茶が混じった子猫だった。
日奈子の気配を感じ取り走ってきたが、陸の姿を見るなり動きがぴたりと止まる。
尻尾がピンと立ち上がり、つぶらな瞳がまん丸になって震えていた。
陸が膝を折り、廊下に片膝をつく。
目線を猫と同じ高さまで下げている。
そして、そっと右手の甲を差し出した。
攻撃意思のないことを示す、動物への基本姿勢だ。
十数秒の緊張の後、子猫は恐る恐る陸に近づいてきた。
小さな鼻を陸の手の甲にちょん、と触れる。
ぴょこりと立ち上がった耳が愛らしい。
陸
陸の口元がかすかに緩む。
子猫も安心したのか、今度は陸の太ももに体を擦りつけ始めた。
喉を鳴らす小さな音が、静かな廊下に心地よく響く。
日奈子
日奈子
先にリビングへ入っていた日奈子が、首を傾げて戻ってくる。
麦と戯れる陸の姿に、一瞬呆気にとられた表情になった。
が、すぐに柔らかい笑みへ変わる。
日奈子
日奈子
日奈子が先導し、リビングへ。
陸は麦を抱き上げて移動する。
ソファーには座らず、ラグの上に胡坐をかいて、麦を膝の上に乗せた。
キッチンへ向かう日奈子の背中を見送りながら、陸がぽつりと呟く。
陸
日奈子
陸
その二文字を噛みしめるように繰り返す。
指先で麦の小さな額をくすぐると、にゃあと甘えた声が返ってきた。
陸の目尻がほんの少し下がる。
猫相手になると表情筋が緩むらしい。
ほどなくして、日奈子がトレイを持って戻ってきた。
香ばしいコーヒーの香りが漂う。
日奈子
日奈子
陸
返事は短いが、麦を撫でる手は止まらない。
日奈子はクスッと笑いながら、テーブルにコーヒーとおにぎりを並べた。
湯気立つカップに口をつける。
麦は陸の膝の上で丸くなり、喉をゴロゴロ鳴らしていた。
日奈子
陸
即答だった。ストレートな肯定。
ふと陸が顔を上げる。
陸
日奈子
日奈子
幼い口調で日奈子が抗議すると、陸がわずかに唇を綻ばせる。
ゆっくりと立ち上がると、麦を大切そうに持ち上げながら、日奈子の隣に腰を下ろした。
互いの肩が触れそうな距離だ。
陸
囁くような低い声。
麦が陸の腕の中で丸くなったまま、寝息を立て始めている。
日奈子
日奈子
陸
ほっとしたような安堵の表情。
珍しく柔らかい雰囲気が漂う。
日奈子
念を押すように訊ねると、陸は一度だけゆっくり瞬きをした。
陸
間髪入れぬ肯定だ。
その意志の固さが声色から伝わってくる。
ふいに陸が身を乗り出し、日奈子の耳元に顔を近づけた。
陸
至近距離からの囁きに、日奈子の心臓が跳ねた。
抱かれた夜の記憶がフラッシュバックする。
日奈子
日奈子
俯き加減に小さく首を振る。
頬が燃えるように熱い。
陸の呼気が耳たぶを擽って恥ずかしい。
陸
満足そうに頷く陸が、日奈子に麦を預けて立ち上がった。
日奈子
日奈子
日奈子
日奈子
そう告げて衣類を差し出すと、陸の眉がピクリと動いた。
陸
日奈子
日奈子
日奈子
日奈子
何気ない説明だったが、陸は言葉を失ったように立ち尽くす。
日奈子はその変化に気づかない。
日奈子
陸
陸
差し出された男物のスウェットを、陸の大きな手がわずかにきつく握りしめる。
冷淡な切れ長の瞳の奥に、得体の知れない暗い熱が灯ったのを、日奈子は知る由もない。
陸はそのまま浴室へと姿を消した。
その背中を見送りながら、日奈子は小さく息を吐く。
麦を膝に乗せながら天井を見上げた。
日奈子
日奈子
一連の流れに戸惑いが隠せない。
シャワーの音が、遠くから微かに聞こえ始めた。
その生々しい水音が、これから何かが始まる予兆を感じさせて緊張が走る。
日奈子
日奈子
麦をそっと撫でながら、日奈子は未だに整理しきれない心情を、胸の奥にしまい込んだ。
冷めかけたカップから立ち上る湯気が、不安と期待が入り混じる夜の幕開けを静かに演出していた。