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Jasmine
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車を走らせてから十五分後。
カジュアルな一軒家のイタリアンレストランが見えてきた。
車内からその店舗を眺めていると、隣から陸がぽつりと呟く。
陸
先に降りた陸が助手席側へ周り、すぐにドアを開けてくれる。
差し出された大きな手に触れると、ほんのりと温かい体温が伝わってきた。
日奈子
こんな風に、男性からエスコートされた経験なんてない日奈子にとって、陸の振る舞いは好ましいという感情より、恥ずかしさの方が勝ってしまう。
自らの手を恐る恐る重ねると、優しい力加減で引いてくれた。
頬が赤く火照る。
車から降りたあとも、陸の手が離れる気配はない。
それどころか、日奈子の小さな手を大きな掌で包み込むようにしっかりと繋いだまま。
いまだに消えない温もりに、日奈子が困り果てていると。
陸
陸の口元が少しだけ緩んだ。
しかしすぐに無表情に戻り、そのまま店の入口へと向かう。
全面ガラス張りの扉を開けると、木目調の落ち着いた空間が広がった。
店内は休日の客でほどよく賑わっている。
窓際の四人掛けテーブルに案内されると、陸はメニューも開かずに店員に告げた。
陸
陸
日奈子
日奈子の口から弱々しい声が漏れる。
初めて訪れたお店なのに、選ぶ楽しみを奪われてしまった。
しかし陸は平然としている。
日奈子が唖然としている間に店員は去ってしまい、メニューを開くタイミングすら失った。
日奈子
言葉にすると可笑しく思えてしまい、日奈子はくすっと笑みを漏らした。
陸は不思議そうに眉を寄せ、すぐさま真顔に戻る。
陸
低く問われて、緩く首を振る。
メニューの端に書かれた「本日のおすすめ」の文字を目で追えば、陸が頼んでくれたパスタの写真が貼られている。
陸
陸
不意に、彼の低い声音で愛称を呼ばれた。
日奈子の心臓がトクンと甘く跳ねる。
あの日、彼のベッドの中で、何度も耳元で囁かれたであろうその声が、映像が、一瞬だけ脳裏に呼び起された。
まるで映画のワンシーンを切り取ったかのような、甘く、激しい記憶。
日奈子の顔が急速に熱くなる。
日奈子
陸
日奈子
日奈子
陸との約束を思い出し、慌ててタメ口に直す。
そんな日奈子の初々しい様子を見て、陸の口元が微かに緩んだ。
陸
ぶっきらぼうな相槌。
それ以降、特に続く会話はない。
店内にはクラシック音楽が静かに流れ、厨房からはオリーブオイルが弾ける心地よい音が聞こえてくる。
賑わう店内の中で、日奈子と陸だけが沈黙を守っていた。
けれど、嫌な沈黙じゃない。
むしろこの無言が心地いい。
忙しない日常から切り離されたような穏やかさが、二人を包み込んでいる。
日奈子
日奈子が向かい側の陸を盗み見ると、彼もまたグラスの水を静かに口に含んでいた。
視線がぶつかって、お互いに照れたように視線を逸らす。
けれどやっぱり、嫌な感じはしない。
そうして思う。この静けさは、陸にとっても特別なものであればいいな、と。
この特別な時間を共有しているという実感が、日奈子の胸を温かく満たしていった。
コメント
1件
無口なのに、ひなの好みをちゃんと覚えててくれてるところが刺さりました……! しかも「嫌だった?」って低く聞いて、ちゃんと安心させてくれるの、不器用な優しさすぎてキュンです😭💕 あの日の甘い記憶がよみがえるシーンもエモい…。無言でも気まずくない、穏やかな時間が二人だけに流れてる感じがすごく伝わってきた! 次のパスタを食べるシーンも楽しみすぎます🍝✨