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そして、二日後の月曜日の朝、凪子は早速良輔から買ってもらったワンピースに着替えた。
華やかな花柄のワンピースは、凪子にとてもよく似合っている。
会社に着て行くので、上には七分袖のブラウンのカーディガンを羽織った。
すると少し落ち着いた雰囲気になり、さらに上品だ。
メイクと髪もいつもよりも念入りに整えた。
そして全身をくまなくチェックした後家を出た。
土曜日の夕食の後、凪子はもう一度良輔に愛された。
結局その日は三回も夫に抱かれた。
なぜ今更…と、凪子の虚しさは募る。
三回目の時、夫は避妊をしてくれなかった。
「そろそろ子供を作ってもいい頃なんじゃないか?」
凪子は咄嗟に、今は仕事が大変な時期だから駄目よと強く拒否したが、
良輔は聞く耳を持たずにそのまま凪子の中に解き放った。
その時凪子は、つくづくピルを飲んでいて良かったと思った。
同意のない無計画な妊娠は、女性が不利になるだけだ。
自分の身は自分で守らないと…凪子は強くそう思う。
皮肉な事に、セックスのお陰で肌の調子がすこぶる良い。
凪子の肌は艶々と輝き、何も知らない人が見たら愛され妻のオーラに全身包まれいるようだ。
心はしんどいはずなのに、凪子の外見は眩しいくらいに輝いていた。
会社へ着くと、早速アシスタントの真野が言った。
「うわっ、凪子さん…そのワンピースすっごく素敵です。それおニューですよね?」
「そうよ。土曜日に夫に買ってもらったの」
「うわーっ、ご主人優しい! いつも夫婦仲がいいですねぇ」
「フフッ! 折角買ってくれるっていうんだもの。スポンサーはしっかり利用しなくちゃね」
凪子はそう言って真野にウインクをすると、
机の上の書類を手にしてフロアーの端へ向かった。
凪子が所属する商品企画部第一課のデスクは、フロアの一番奥にあった。
その手前が、商品企画部第二課、
そして、出入口に近い場所にあるのが、商品企画部第三課だった。
凪子は第三課へ用事があったのでそこへ向かう。
第三課は、凪子と同期の高野麻美が主任務めていた。
麻美は凪子よりも少し遅れて主任の座に就いたが、
凪子と同じくらいのセンスと実力を兼ね添えたやり手だ。
新人の頃は二人でよく飲みに行き、当時の不満やストレスを発散していたが、
互いに責任ある地位についた今は、互いに忙しくてなかなかゆっくり話せる時間がなかった。
凪子が麻美のデスクへ行くとすぐに麻美が気付いた。
「凪子おはよ!」
「おはよう麻美! コレ、前に頼まれていた資料。うちではもう使わないからどうぞ」
「おーっ、マジ助かるわぁ…サンキュ」
麻美はそう言うと、凪子から資料を受け取った。
その時、ちょうど派遣社員の女性グループがぞろぞろと部屋に入って来た。
商品開発部の派遣社員の席は、第三課の片隅にデスクが設置されている。
麻美の席からは、2メートルほどしか離れていない。
(チャンスだわ)
そう思った凪子は、どうやって服の話に持っていこうか考える。
その時麻美が言った。
「凪子、今日のワンピースすっごく素敵ー! 買ったの?」
凪子は顔を動かさずに目だけでちらりと絵里奈を盗み見る。
絵里奈はそ知らぬふりをしているようだが、しっかり聞き耳を立てている様子だった。
(麻美ったら、ナイスタイミング!)
凪子は心の中で麻美に感謝しつつ、質問に答えた。
「これ? うん、土曜日に良輔が買ってくれたの。これともう一着黒いワンピースもね」
「へぇーっ素敵っ! いいなぁ、どこで買ったの?」
「表参道モールよ!」
「うわぁ…あそこのセレクトショップどの店も全部高いんじゃない? いいなぁー凪子は朝倉さんに愛されてるよねー!」
まだ独身の麻美は心底羨ましそうに言う。
そして続けた。
「ってか、職場も一緒なのに休日も一緒に出掛けるとか、どんだけ仲良しなのよっ! もうっ!」
麻美が呆れた様子で言ったので、凪子は笑いながら答える。
「なんかさ、久しぶりにのんびり出来た休日だったのよ。だから付き合っていた頃みたいにデートしようっていう話になった
のよ。で、そこで買ってもらったって訳!」
「マジー? じゃあ食事とかにも行ったの?」
「うーん、外でランチはしたけど夜は私が作ったわ。で、良輔ったら美味しい美味しいって喜んじゃってね…たまにはああいう
休日もいいわね」
「凪子は料理上手いからなー。ってことは、もちろん夜の方も?」
麻美は声を潜めて聞いたつもりのようだが、元々声が大きいので内容は派遣社員の席まで筒抜けだった。
しかし、凪子はあえて気づかないふりをして答えた。
「もちろん。あっ、でもね、良輔ったらそろそろ子供が欲しいって言うのよぉー! 呑気でしょう? こっちはこれから新ブラ
ンドで忙しいっていうのに…参ったわ」
「キャーッ! はいはいご馳走様ー! 独身女には刺激が強すぎるから、もうあっち行ってシッシッ」
そんな麻美を見て凪子は笑いながら、
「フフッ、じゃあまたね」
と言って手を振った。
そんな凪子に麻美が声をかける。
「今度お昼休みの時間を合わせてランチに行こうよ」
「オッケー! 都合がついたら声かけてね」
凪子はそう言うと、エレガントなワンピースの裾をひらひらと揺らしながら、
自分のデスクへ向かった。
帰り際、チラリと絵里奈の方を盗み見る。
すると絵里奈は青ざめた表情のまま両手をギュッと握りしめると、パソコンを見つめたまま微動だにしなかった。
それを見た凪子は確信した。
(あの女に間違いないわ)
それから凪子はフンッと鼻を鳴らすと、姿勢を正して自分の席へ戻って行った。
コメント
1件
引っかかる良輔もどうかしてるけど、人のダンナに手を出す絵里奈は後々凪子さんにコテンパンにやられればいい😠💢😡 凪子さんを羨ましいと思うなら派遣からのし上がって仕事の実力で頑張った方が報われると思うけど…若い派遣の絵里奈には若さと色気で横取りする事しか思いつかなかったんだろうなぁ,愚か🙅♂️