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良輔に遅くなると連絡してもすぐに不倫相手を思い出すのはやはりもう別れるのが一番だと思う。 それより信也さんと仕事の話を詰めながら今後の話をするのがよほど重要‼️
その日の午後、デスクにいた凪子のスマホへ信也からの着信があった。
「もしもし?」
「そろそろ例のウエディングドレスの件、ちょっと相談出来るかな? 今夜飯でも食いながらどう?」
凪子は手帳をめくり、念の為夜のスケジュールを確認する。
「大丈夫よ!」
「じゃあ、会社の前までタクシーで行くよ! 6時でいいか?」
「うーん…6時半にしてもらってもいい?」
「了解! じゃあ後で!」
凪子は電話を切ると、すぐに仕事に戻った。
一方信也は、
「意外に元気そうだな…」
そう呟く。
すると、隣にいたアシスタントの高田が聞いた。
「誰が元気なんですか?」
「いや、別に…」
信也は笑ってごまかすと、高田に言った。
「俺今日さ、凪子とメシ行ってくるよ。例の件を聞いてくるわ!」
「ウェディングドレスの件ですね! 承知しました! 凪子さんからいいアドバイスがもらえるといいですね!」
「ったく、結婚した事ねえおっさんにウエディングドレスのデザインとか、無茶ぶりだよなぁ…」
信也が苦笑いをすると、
「先生もいい加減一人に絞ったらいかがですか? 花嫁候補はいっぱいいるでしょう?」
高田がニヤリと笑う。
「お前、俺に説教するのは20年早いぞ!」
信也は高田の頭を軽くペチッと叩いてから笑った。
18時になると、真野がオフィスにいる凪子に聞いた。
「凪子さん、今夜は戸崎さんとお食事ですか?」
「そう…新しい仕事で相談したい事があるんだって」
「凪子さん頼られてますよねー! 相手はパリコレ常連の有名デザイナーですよ。その戸崎氏に相談に乗って欲しいって言われ
るなんて凄いです。そんな凪子さんのアシスタントをしている私も鼻高々ですよー」
真野が興奮した様子で言った。
「そんなりっぱなもんじゃないわよ。またきっと愚痴とかどーでもいい話で終わっちゃんだから。それにあの人、仕事仲間って
いうよりも幼馴染とか親戚に近いような感覚なの。まあだからこそ長く付き合ってこられたのかもしれないけれどね」
「有名デザイナーを前にしてその感覚って、凪子さんどんだけ大物なんですかっ!」
「フフッ、大物じゃなくて、コミュ力高いって言って!」
すると真野は声を出して笑った。
「凪子さんには参りました。では私はお先に失礼しまーす!」
真野は凪子に会釈をするとオフィスを後にした。
一人残った凪子は、パソコンに向かい急ぎの入力業務を続ける。
もうほとんどの社員が家路につき、フロアには5~6人の社員しか残っていない。
国が大々的に取り組んでいる労働環境改善とやらの影響で、凪子の会社も従業員の就業時間に厳しくなっている。
社内も終業時刻を一定時間超えたら、自動的に社内の照明が落ちてしまう。
それでも残って残業をしていると、上司からお咎めを受ける。
(ホワイトなのはいいんだけれど…どうしても仕事が終わらないと休日出勤になっちゃうのよね…)
凪子は不満げに呟きながら漸く入力作業を終えた。
(やっと終わった)
パソコンの電源をオフにすると、時間はちょうど18時20分だった。
凪子は化粧室へ行き軽くメイクを整えると、
スマホを取り出し夫の良輔へ今夜は遅くなるとメッセージを送る。
【今夜は打ち合わせで遅くなるから先に寝ててね】
するとすぐに既読になり返事が来た。
【お疲れ! 俺は今日、珍しく何もないからどっかでも飯食って帰るわ。あまり遅くなるなよ】
「へぇ…今日は愛人には会わないんだ…せっかくのチャンスなのに」
凪子は皮肉めいた口調で呟きながら、『了解』というウサギのスタンプマークを送る。
そして一階へと向かった。
ビルを出ると、既に信也が乗ったタクシーが停まっていた。
凪子が近づくと、すぐにドアが開く。
「お待たせしました」
凪子は運転手へ軽く会釈をすると、タクシーに乗り込んだ。
「お疲れ!」
信也は凪子にそう声をかけると、運転手に行き先を告げた。
「今日は和食でいい?」
「もちろん」
そして二人が乗ったタクシーは、信也の行きつけの日本料理店へと向かった。