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俊はというと、特に気にする様子もなく先程頼んだジンジャーエールをゆっくりと口に運ぶ。

俊はとにかく、新しい家には女性関係を持ち込みたくなかった。


今住んでいる南青山のマンションでは、過去に様々なトラブルに見舞われた。


当時つき合っていた女を家に呼んでいた時に、別れた女が乗り込んで来たり、

一度寝ただけの女が毎日家に訪ねて来たりと、

女性関係でのトラブルがいつも絶えなかった。


終の棲家として選んだ鎌倉の家は、閑静な住宅街の一戸建てだ。

そんな所で、女関係のトラブルや痴話喧嘩などを起こしたら、

ご近所の目もあるので住み辛くなってしまう。


俊は、鎌倉に骨を埋める覚悟で家を購入した。

穏やかな老後をその地で過ごす為には、ご近所付き合いもきちんとしなければならない。

だから女関係でのゴタゴタをそこへ持ち込む事は、一切あってはならない。


俊は親しい人以外には鎌倉の住所を教えるつもりはなかったし、

逆に隠し妻がいると思われた方が好都合かもしれないとも思った。


いつまでも無言の俊にしびれを切らしたゆりあが言った。


「一ノ瀬さん、今日車なら送ってもらおうかなぁ?」


ゆりあは俊にしなだれかかって甘えたように言う。

すると、俊は、


「ごめんね、この後約束があるんだ」


そう言ってこれから女性と会うような雰囲気を匂わせる。

するとゆりあは露骨にがっかりした様子で、


「ふぅんそうなんだぁ。でもね、私彼女がいても奥さんがいても構いませんよ。こっちを振り向かせる自信はありますから!」


と言うとカクテルをグイッと飲み干した。


「君は随分強気だね。そうやって今まで何人の男を口説いてきたんだい?」


俊は笑みを浮かべながら穏やかに言った。

ゆりあより20歳も年上の俊には、ゆりあの口説き文句など全く心に響かなかった。


「あらっヒドイ! なんか私が遊び人みたいな言い方ー!」


すると二人の会話を聞いていた矢口が、


「ゆりあちゃーん、マジ、俊さんは落ちないからさぁ、他の男、例えば僕とかに標的を変えた方がいいっすよ」


そう言って笑うと、ゆりあは、


「矢口さんのイジワルッ!」


と言って頬をぷくっと膨らませた。


しかしその表情も、自分を一番かわいく見せるよう計算された顔なんだろうなぁと俊が思っていると、

ゆりあは今度、俊の腕に手をかける。

そして、


「私、歳が離れた落ち着いた人じゃないと駄目なの。いつか絶対に落としてみせますから!」


ゆりあはそう言うと、自分の胸を俊の腕にグイッと押し付けてきた。

しかしそんな事をされても大人の俊には響かない。


「ハハッ、まあ頑張って! じゃあ、俺先に帰るわ!」


俊はそう言って立ち上がると、テーブルにいる皆に向かって手を挙げた。

そして会計伝票を取り上げ出口へ向かう。

それに気づいた男性陣が、


「俊さんご馳走様っす!」


と一斉に声をかけた。


急に立ち上がった俊に驚いたゆりあは、

俊の後を追いかけて出口までついて来た。


「戻った方がいいぞ。ついてきても何もないからな」

「そんな事を言われると、余計に追いかけたくなるのを分かっているくせに!」


ゆりあはそう言って熱い視線を俊に向ける。

しかし俊はそれを無視して、


「じゃあね!」


とゆりあに言うと、あっさりと店の外へ出て行った。

後に残されたゆりあは不機嫌な様子でムスッとしていた。



俊はコインパーキングに停めてあった外車のSUV車に乗り込むと、すぐに高速のインターを目指した。


俊は若い頃からサーフィンが趣味だった。

仕事が一番忙しかった時はさすがに海に行く時間はなかったが、

50歳を過ぎた頃から再び頻繁に海に通うようになっていた。


鎌倉の家を購入してからは、毎週末鎌倉へ行き波が良ければ必ず海に入るようにしている。

いずれ完全移住をしたら、毎朝サーフィンをするのが楽しみだ。


これまでは仕事漬けの日々だった。

そろそろのんびりしてもいいだろう。

俊がそう思うようになったのも、年齢のせいだろうか?


努力した結果、欲しいものは全て手に入った。

しかし目標を達成して嬉しいはずなのに、なぜか心は空虚感で埋め尽くされている。


海辺の町に住めば、その空虚感は薄れていくのだろうか?


俊はそんな事を考えながらアクセルを踏み込む。

そして夜の高速を突き進んだ。


高速を降りて一般道へと入ると、しばらく繁華街を進む。

その後住宅地へ入ると、俊の車は坂道を上り始めた。

その坂を上り切った辺りに、俊の家はあった。


購入した家は中古で、前の所有者は会社経営者だった。

この家は別荘代わりにしか使っていなかったようで、建物はほぼ新築に近い状態だった。


トイレやキッチンなどの水回りは全て新品に変えた。

あとは室内の造作を、菊田に紹介してもらった大工の良さんに

週末ごとに造ってもらっている。


今はリビングにある壁に、鉱物や化石を飾る棚を作ってもらっている最中だ。


良さんの仕事はとても丁寧でセンスが良い。

さすがこの辺りの富裕層の家に出入りしているだけあって安心して任せられる。


この土日も良さんに来てもらう予定だ。

明日は良さんに作業をしてもらっている間に、俊は少しこの辺りを散策してみようと思っていた。


この近くにある切り通しが、最寄り駅へ行く近道だと菊田に教えてもらった。

だからそこを歩いてみる予定だ。


車をガレージへ停めると、俊は軽やかな足取りで家の中へと入って行った。

51歳のシンデレラ

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コメント

3

ユーザー

いざ、鎌倉❗

ユーザー

海の近くで昔からの友達らと話したり趣味の部分を追求してみたりするうちに自分の求めてるものが見えてくるかもね、俊さん😊✨

ユーザー

傲慢女子ゆりあも俊さんが相手にしてくれないって騒ぐアラフォーは誰からもウザがられてるのがわかんないんだろうなぁ。苦肉の策の隠し妻もなかなかだけど、俊さんはこれまでのような若い甘えてくるだけの女には飽きちゃったのでは⁉️

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