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儀礼用の冠《かんむり》と、腰にさす儀杖《かたな》を取ると、ジオンは大きく息をつく。今日ほど王の証を、重いと感じたことはない。


私室にもどり、めしかえる――。


宦官が忙しく王の身の周りを取り仕切り、冠も儀杖も、着る装束すらも、たちまち前から消えうせた。


婚礼の儀式は終わったのだ。そして、夜になれば、自分の妻となった娘の元へ通わなければならない。


(……王女はこの小国の王を寄せ付けないだろう。まあ、それでいいのだが……。)


ジオンは、ふと思う。


それにしても。自分の周りで采配をふるう宦官達が疎《うと》ましかった。


花嫁のところへ下る時、どの衣に召しかえるか、どの香を焚きしめるか、事細かにいちいち尋ねてくる。


言ったところで、すべて決まっているくせに、本当にげんきんなものだ。


さて、いまだかつて、これほど王の機嫌をとったことがあるだろうか。


それほど、宮殿は吉事に浮き足立っていた。


一人になりたいと思えども、休む暇なく、ぞくぞくと高官達がジオンの元へと訪ねて来る。


祝辞を述べるとか言いながら、王の私室にご機嫌伺いにやって来る彼らの相手をするのは気重で仕方ない。


そのたび、酒盃を勧め、さらに、記念に何かを下してやらねばならない。


お定まりの感謝の気持ちやら、代わり映えしない言葉を耳にして、今日という日が、はやく終わらないのかとジオンは願った。


花嫁の名は、タン・ジェ・リヨンという。「王の一族に属す、リヨン」という意味合いらしい。


この風変わりな音の連なりを、ジオンの耳は受け付けなかった。


ここまで、毛嫌いするのは何故だろう。


ミヒがいるからか?


いや、やはり、花嫁の撫然としたあの態度。


特に言葉をかわしたわけではなかったが、自分の妻となる少女は、ミヒとあきらかに違っていた。


ミヒは何をしているのだろう。


ジオンの思いは、ここにない。


もちろん、自分の花嫁にも。


窓から西日が差し込んできた。


自分の妻とやらの所へ下る時が迫っている。

朱(あけ)の花びら

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