テラーノベル
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しばらくして、スメラは焚き火の奥をじっと見つめ、静かに語り出した。
「あの日のことを、話しておくわ……」
ラッセルとカーンは静かに聞き入る。
「あの日、すべては、私の秘書官室にリヴァンが現れたことから始まったの……彼は無言で机の中や書類棚を荒らし、私が密かに国王陛下へ提出しようと準備していた直訴状までも破いていたわ。
そのときの彼の目、もう、人の光じゃなかった。私の胸の奥に走ったのは恐怖ではなく、ただ“正さねば”という衝動だった。私は電磁ロッドを引き抜き、彼に立ち向かったの……ためらいなんてなかったわ。
リヴァンを、光の刃で打ち倒した。彼の赤黒い瞳が、一瞬だけ正気を取り戻すように揺らいで、そして、崩れ落ちた。私もその場に崩れ落ち、泣いたわ。
けれど……次の瞬間、背後でマラーの声がして、気づけば私はこの闇の中にいたの。ここが処分場だと悟ったわ。
彼らは告発の機会さえ与えず、“生きたまま消す” ……それがリヴァンのやり口だったから。
あたりは闇で遠くから魔物の呻き声が響き、息を潜めるしかなかったわ。
最初の三日間は生きるだけで精一杯。飲み水を確保し、ガラクタで濾過装置を作り苔や水生植物を口にして命をつないだ。
魔物の接近もあったわ。黒い目の同族らしき影が何度も近くを彷徨ったわ。
音を立てぬよう数時間も岩陰に縮こまり、光源の炎を守り続けた。
やがて私は思い出したの。昔、ラッセルと共に王令で調査したこの地下通路のことを。官邸地下に残された備品を探し、六芒星の台座や探査機、武器を見つけたわ。正規ルートは爆破され、封鎖扉が設置されていた。……もう終わりだと思ったわ」
焚火の炎のはぜる音だけが響いた。
「その時、転送装置から黒い箱が現れたの。最初は、粛清の犠牲者かと身をすくめたけれど……怖くて、震えながら蓋を開けたの……」
スメラの声が途切れ、焚火の炎が揺れた。
「でも、中には物資と、一通の手紙があったの。――スメラ。必ず迎えに行く。信じて待っていてくれ。――そう書かれていて……ラッセルの名前があったの……」
胸の奥から熱い感情がこみ上げ、必死に抑えようとした。
「孤独も恐怖も……全部、この言葉に救われたの。私……もう、耐えられなかった……!」
かすれる声が途切れ、押し殺していたものが決壊した。
涙が堰を切ったように溢れ、頬を伝っていく。
嗚咽が洞窟の闇に響き渡った。
ラッセルとカーンは言葉を足さず、ただ彼女の涙を見守った。
やがて、ラッセルが優しく口を開く。
「よく頑張ったな。……もう大丈夫だ。スメラ……」
焚き火のはぜる音だけが、三人を包んでいた。
しばらくして、スメラは涙を拭い、
炎をまっすぐに見据えて顔を上げた。
「ありがとう。続けて話すわ……」
彼女の声はまだかすかに震えていたが、その瞳は決意を宿していた。
「地底湖の付近では、帝国が生んだ生物兵器《ギル・グラギラス》のような影を見たの。
闇の中、巨躯がうねる音がして……次の瞬間、足音を立ててこちらに突進してきた。
閃光弾で何とか逃げ延びたけれど、あの時はもう駄目だと思った」
唇を震わせながらも、彼女は言葉を紡ぎ続ける。
「……それでも、私はあきらめなかったわ」
「湖から離れたこの場所に台座を置き、ベースキャンプを築いた。
そして探査機で調査を進めたら、この地下迷宮は王研の深部へ通じているルートが整備されていたの」
焚き火の光が彼女の瞳を照らす。
「翌日、王研へのアクセスを試みようと準備をしていたの。
その時だったわ。轟音と悲鳴が響いて……助けに走ったら、あなたたちと再会できた」
再び胸の奥を焼くような熱い衝動がこみあげ、声は震え、呼吸も乱れそうだった。
だが、二人の存在を確かめるように目を向けたとき、
焚き火の光と彼らの気配が寄り添い、やがて静けさが彼女を包んでいった。
「スメラ……生きていてくれて、本当に、ありがとう」
ラッセルの声は、低く震えていた。カーンも深く頭を垂れ、静かに呟いた。
「今ここにこうして三人揃ったこと自体が、すでに、奇跡だ」
焚き火の火花がパチンと弾け、暗い岩壁に一瞬の光を投げかけた。
その小さな炎に守られるように、三人は束の間の安堵を分かち合った。
やがて、スメラが小さく息を吸い込み、震えの残る声で呟いた。
「……あの時、私を支えてくれたのは、手紙だけじゃない。
あなたが助けに来てくれる。そのこと自体が、私の希望だったの。
ラッセル、あなたの存在そのものが……私を生かしてくれたのよ」
ラッセルは言葉を返せず、ただ深く頷いた。
その瞳に浮かんだ光は、涙とも、誓いともつかない。
カーンが静かに目を閉じ、低く言葉を継ぐ。
「……この瞬間のために、生き延びたのは、スメラだけではない。俺たち三人、皆同じだ」
ラッセルが二人の顔を見渡し、炎に誓うように声を上げた。
「俺たち三人で生き延びよう! そして必ず、リヴァンの悲しみと憎しみを断ち切る!」
スメラは涙に濡れた瞳で頷いた。
「ええ……私は信じている。あの赤黒い目の奥には、まだ人の心が残っているわ。あれは彼の深い悲しみと憎しみに囚われているだけ……」
「あいつがどれほど裏切ろうとも、俺たちは最後までリヴァンを裏切らない。
赤黒い目に侵された被害者だ。だが、粛清で人命を奪ったことは許されない。必ず罪は償ってもらう……」
カーンの声は岩壁に低く響き、二人は強く頷いた。
ラッセルは静かに内ポケットへ手を伸ばした。そこから現れたのは幾度も使われた跡が残る古びた万年筆。削れた軸の傷、わずかにインクの匂いが立ちのぼり持ち主の息遣いまでも宿しているようだった。
「……そして、もう一人。ここに共に戦っている、仲間の証がある」
二人が視線を向ける。
「週刊レガリアのカザン記者のものだ。彼は剣ではなく言葉で真実を貫いている戦士がここにもいる。必ず再び彼を仲間として迎え、皆に紹介したい」
スメラは驚きに目を見開きすぐに自分の浅はかな思い込みを恥じるように視線を伏せた。焚き火の揺らめきが彼女の頬を照らし、やがてその瞳には尊敬の色が宿っていった。
「カザン……。私はただのスクープ狙いの記者だと思っていた。けれど、違ったのね」
焚き火の光に照らされる瞳に、尊敬の色が宿る。
「彼は、国民のために真実を掲げて戦っていたのね。報道を武器に……国を守ろうとしていた」
ラッセルは静かに頷き、万年筆を握り締めた。
「このペンは、剣と同じ重みを持つ。国を守る力になるんだ」
焚き火の火花が夜気に舞い暗い岩肌を淡く照らす。
束の間の安堵の中で三人の絆はより強く、静かに結ばれていった。
しかし、その静けさは長くは続かなかった。
闇の奥から低い唸り声が響き岩壁がわずかに震える。
砂がぱらぱらと崩れ落ち、冷たい風が洞窟を抜けていった。
コメント
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うわぁ、第26話めちゃくちゃ良かった……! スメラがラッセルの手紙に支えられたって告白、あそこ本当にグッときた。「必ず迎えに行く」の一言が彼女を生かしたんだなって思うと、熱いものが込み上げてきたよ。三人で焚火を囲んで誓い合うシーンも、カザンの万年筆が出てきたのも、絆の重みがじんわり伝わってきた。最後の不穏な気配、これからどうなるんだろう……続きが気になりすぎる🔥
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