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夏休み最後の日の夕方、校門前の通りは不思議なくらい静かだった。宿題の終わったノートやプリントを鞄に入れたまま、私は翔太と並んで歩いていた。
「終わっちゃうね」
「うん……なんか、あっという間だったな」
西の空は茜色から紫に変わりかけていて、その色の境目がきれいだった。
蝉の声はもうほとんど聞こえず、代わりに草むらから鈴虫の音が小さく響いている。
「今年の夏、楽しかった?」
「うん。たぶん、今までで一番」
「それ、俺のおかげ?」
「……どうだろうね」
わざと曖昧に答えると、翔太は笑った。
その笑い声が、少しだけ夕暮れを明るくした気がした。
商店街の角に差しかかると、店先から風鈴の音が聞こえた。
涼しい風が通り抜けて、私の髪をそっと撫でる。
「明日からまた学校か……」
「うん。でも、夏が終わるわけじゃないし」
「そうだな」
しばらく歩き、家の近くで足を止める。
「じゃあ、また明日」
「うん、また明日」
背中越しに手を振ると、翔太も小さく振り返してくれた。
その瞬間、夕焼けの光が彼の輪郭をやわらかく包み込んだ。
私はその景色を胸の奥にしまい込むように、静かに深呼吸した。