暗がりのなか、蓮司の指先が肌の上を撫でていた。服の布地越しなのに、そこだけが異物のように熱く、ざらついて感じられる。
(やめろ、って……言えよ)
頭の奥で誰かが叫んでいるのに、声は出なかった。
ただ、吐く息がひどく浅くて、胸の奥で小さく詰まる。
手首を押さえられた。
ゆるやかな力。でも、逃げようとすれば、確実に止められると分かる力加減。
爪の先が、首筋にかすった。
びくんと肩が跳ねた。
──反応してしまった、と思った。
(ちがう、ちがう……)
喉の奥が熱い。
なにかを吐き出したくて、でも吐けなくて、
ただ奥歯を強く噛みしめた。
身体のどこかが、震えていた。
どこかが、もう慣れてしまったように、受け入れようとしていた。
(俺の身体が……勝手に)
それがいちばん気持ち悪かった。
他人の手を受け入れようとする自分の皮膚が、骨が、呼吸が──
「ほら、もう逃げない」
蓮司の声が、皮膚の裏に染み込むように響く。
「壊してほしいんでしょ、どうせ」
笑ってる。
優しい声色で、いちばん冷たいことを言う。
「おまえのこういうとこ、ほんと、すぐ反応するよな。おもしろいくらい」
また触れられる。
今度は腹の下。布の上から、輪郭をなぞるように。
跳ねそうになった。
でも、動けなかった。
そのまま、自分の内側に向かって、どこまでも沈んでいく感じ。
(お願いだ、壊すなら──壊してくれ)
(全部、なくしてくれ)
そう思っていることすら、嫌だった。