テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
放課後。
空き教室。
日下部は机の上でシャーペンを転がしていた。
ドアが開く。
「お疲れ」
「お疲れ」
相談者が教室に入る。
「今日は進んでますか」
「シャーペンだけ進んでる」
「勉強は」
「止まってる」
相談者が笑って席に座る。
「今日は?」
相談者は少し考えてから話し始めた。
「俺、誰かに優しくされると、嬉しいより先に申し訳なくなるんです」
日下部は目を向ける。
「例えば?」
「荷物持ってくれたり、体調気にしてくれたり、話聞いてくれたり」
少し間。
「普通に優しくしてもらうだけで、『俺なんかにそこまでしてもらって悪いな』って思います」
教室が静かになる。
「ありがとうとは言える?」
「言います。でも」
相談者は苦笑する。
「早く返さなきゃって思います」
「返す?」
「はい。何かお礼しないと。同じくらい優しくしないと」
少し俯く。
「借りを作った感じがして」
日下部は少し考えた。
「優しさって」
少し間。
「貸し借りなのか?」
相談者は止まる。
「え」
「お前が友達に『大丈夫?』って聞く時、見返り考えてる?」
「考えてないです」
「じゃあ」
短く言う。
「相手も考えてないかもしれない」
相談者は黙る。
「でも、迷惑かけた気がして」
「助けた相手に」
日下部は言う。
「『迷惑だったよ』って言ったことある?」
「ないです」
「じゃあ」
少し間。
「それ、お前が決めてるだけだ」
相談者は静かに息を吐く。
「俺、優しくされるたびに」
少し考える。
「返済しようとしてました」
「疲れるだろ」
「疲れます」
日下部は頷いた。
「人間関係って全部五分五分じゃない。今日は助ける側、明日は助けられる側」
短く言う。
「結構入れ替わる」
相談者は静かに聞いている。
ruruha
2,046
202
1
水白幻レイ
11
「なのに」
日下部は続ける。
「助けられる日だけ禁止にしたら」
少し笑う。
「ずっと助ける係になる」
相談者は吹き出した。
「確かに。それ、結構しんどいです」
「だろ」
窓の外から下校する生徒の声が聞こえる。
相談者は少し考えてから言った。
「俺、ありがとうだけで終わっていいのに勝手に借金だと思ってたのかもしれません」
「その方が近いな」
日下部は頷く。
「優しい人って」
少し間。
「返してほしいから優しくしてるとは限らない」
相談者は小さく笑った。
「俺もそうです」
「なら」
日下部は笑う。
「相手にも同じ権利をやれ」
相談者は少し驚いて、それから笑った。
「何かその言い方、分かりやすいです」
立ち上がる。
「次に優しくされたら」
少し考える。
「『すみません』より『ありがとう』をちゃんと言ってみます」
「それで十分」
日下部は頷いた。
ドアが閉まる。
優しくされると申し訳なくなるのは、優しさを「借り」として受け取っているからかもしれない。
でも、相手が渡したかったのは請求書ではなく、ただの思いやりなのかもしれない。
コメント
1件
あおいです🌷 第28話、読ませていただきました。 「優しさって貸し借りなのか?」という日下部さんの問いかけが、すごく刺さりました。誰かに優しくされて「ありがとう」より先に「すみません」が出てしまう気持ち、わかるなあ…。でも「それ、お前が決めてるだけだ」って言い切ってもらえると、肩の力がふっと抜ける感じがします。最後の「相手が渡したかったのは請求書ではなく、ただの思いやり」という地の文が、話を優しく包んでいて沁みました。優しさの受け取り方をそっと教えてくれるような、あたたかい回でした🍀