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「猿山!!!!」
「っ!」
直後、服を掴まれて体が後ろへと引かれる。バランスを崩し、ひどく痛い尻もちをついた。
あまりの衝撃に目を閉じるが、次開いた時に声の主はいなかった。
幻覚でも幽霊でも見たのかと疑った。けれど、その疑いは次には現実となったのだ。
「……見た? 今の」
震えている相手の声はか細く、小さい。恐る恐る聞くように、相手はこちらの顔を覗き見る。
自分はどんな顔をしていたのか、想像もつかない。けれど、言えることは一つ。
決して、いい顔なんかではない。
「…………み、た」
動悸する心臓を抑えるように深呼吸をしながらそう言葉を放てば、相手は正気を失ったような顔つきをして、ゆっくりと立ち上がった。
銃を懐にしまい、離れようとする天乃に、俺はへたりと座り込んだまま相手を見て叫んだ。
「───おい! なんか知ってるなら言えよ!! 逃げるな! 念願の刑事なんだろっ?」
あまり感情が表に出ない自分にしては、珍しく大きな怒鳴り声に似た言葉を出した。
自分の思いが届いたのか、はたまた運が良かったのか。どちらかは分からないけれど相手はぴたっと立ち止まって、こちらを青ざめた顔で見つめた。
「……今のは、見ちゃ、いけない。いても、いけなかった存在」
“あの存在”は見てはいけなかったのだと。
血みどろで、半袖半ズボンの服はビリビリで、砂と血で汚れまくった夏服。小学2、3年生程度の子供。
───天乃だ。
小学2、3年生程度の時の天乃。でも、なんであんな血みどろで?それでいて、ここにいる天乃と小学生の天乃がなぜ同時に存在する?
次々と浮かび上がる質問の中、天乃は続けた。
「……あれは、あの神社で願い事をした小さい時の俺」
「は……?」
意味がわからない。
あの神社って、まさか。願っては、祈ってはいけないと噂されているあの神社のことを指しているのか?
「らだぁも願ったんでしょ? あの神社で」
混乱する自分をおいて、天乃は的確な言葉を突いてくる。彼は少し気まずそうだが、こちらとしては状況についていけない。
「でも、なんでお前が祈る必要があって……!」
けれど彼だって知っていたはずだ。
あの神社は、願いを叶えることができる。ただし、1人と引き換えに……なんて、この辺ではよく知れ渡っていた噂じゃないか。
そんな風に聞いてみると、相手は自身の言葉を遮るように答えた。
「だってらだぁ、いつかは死んじゃうじゃん」
「っ……」
なんの言葉も出ない。つまるところ、図星だ。
「子供の時、お前はいっつも苦しそうで、すぐにどこか死にそうな雰囲気があった。それなのに、苦しそうなまま人生を終えるのはダメだって思ったから、願ったんだよ」
───天乃は彼自身と引き換えに、自分のために祈ったのか。
「───らだぁが、猿山らだ男が、幸せな未来を長く長く過ごせますように、って」
そう理解するのには、容易だった。
「猿山らだ男が、自分の───天乃絵斗の命を使ってでも幸せになれる未来がなるべく早くに来ますように、って。」
───なんてバカな男なんだろう。
色々な感情が湧き立っているくせ、思うことはたったその一言だった。
そうして、認めたくないような事実を静かに置かれた気もした。けれど、それがなんなのかはわからなくて。
「じゃあ、あの小さい怪我だらけのお前は……」
聞かなければ良かったのだろうか。それとも相手が答えなければ良かったのだろうか。
それでも、きっと、結末は変わらない。
「そう。神社で願った後、すぐ交通事故に遭って死んだよ」
知りたくない。聞きたくない。そんな言葉が、一瞬で”認めたくない”の一点張りになった。
コメント
1件
ああ……もう、胸がぎゅっとなりました…… 「だってらだぁ、いつかは死んじゃうじゃん」って、あの軽い口調で言うから余計にくるんですよね。子供の天乃くんが、自分の命と引き換えに猿山さんの幸せを願ったなんて——知りたくない、認めたくないって気持ち、すごくわかります。 タイトルの『容易だった』が、この重たい真実をさらっと飲み込ませるようで、読後もずしりと響きました。良い意味で、苦しいです。
二酸化炭素
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推しで世界を支配する
16
(*´ー`)ノ
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