テラーノベル
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今泉さんの腕に触れながら、浅い呼吸を繰り返す。
「大丈夫?」
彼は頬を撫でながらキスを落とし、そのまま私を抱きしめた。
広い胸に頬を寄せ、深く息を吸い込む。
呼吸が落ち着くにつれ、脈打ち続けていた秘部の感覚が少しずつ戻ってくるのを感じた。
……心地いい。
重なる鼓動も、耳に流れ込む吐息も。
交じり合う汗の感触が、こんなにも心地いいものだなんて知らなかった。
「……はい。大丈夫です」
引き締まった胸に顔を埋め、彼の鼓動を聴きながらそっと瞼を閉じた。
初めて迎えた快感の余韻が、下腹部でまだ熱い拍動を刻んでいる。
「あの……」
「ん……?」
「その……まだ痺れていて、熱いです」
重なる肌の間から上目遣いで彼を見つめ、小さく呟いた。
「ん……?」
「その……触れられていたところに、不思議な感覚が残っていて……」
はにかみながら下腹部へ手を当てた途端、そんなことを口にしている自分が恥ずかしくなった。
「……ああ、そうか。初めてだから、不思議な感覚なんだろうね。
そればかりは、女の子にしか分からないからなぁ」
火照った私の顔を見つめながら、今泉さんは優しく微笑み、髪を撫でた。
優しく髪を撫でる指が、少しずつ呼吸を整えてくれる。
「あの……驚きましたか? この歳でオーガズムを知らないなんて……」
遠慮がちに彼を見上げる。
「いや、全然。日本人の女性は、半数近くが絶頂を経験したことがないって聞くからね。
それを恥じてか、相手に気を使ってか、演技をしている人も多いらしい。決して珍しいことじゃないと思うよ」
今泉さんは頬を綻ばせる。
「そうなんですか……。演技と言っても、その感覚を知らないのに、どうやって演技をするんでしょうか……。『イク』って、一体どこに『行く』のか、ずっと不思議に思ってました」
「ははっ! 『どこに行くのか?』かぁ。確かに。行き先はどこなのか、俺も興味があるよ。
うん、亜紀の思考は純粋で面白い!」
「ちょっ……もうっ! そんなに笑わないでくださいよ」
まだ熱の籠った頬を赤らめ、口を尖らせる私。
「……で? 初めてオーガズムを体験して、亜紀はどこに行ってきたの?」
拗ねた私を見つめ、今泉さんは嬉しそうに口元を緩めた。
「えっと……頭が真っ白になって、意識が一瞬途切れるような……。どこに行ったかと聞かれたら……無の世界――でしょうか」
「無の世界! 良いねぇ、最高じゃないか。
身体が絶頂を覚えると、回を重ねるたびにイくことにも慣れてくる。
女性の身体は快感の宝庫。自分次第で、いくらでも深い快感を引き出せるんだ。亜紀には、その素質がある」
「……本当に?」
……そもそも、そこに素質なんてものがあるのだろうか。
「ああ、俺が証明してみせるよ」
自分次第で、いくらでも快感を引き出せる……?
それが、女として開花するということ?
今泉さんが腕枕をしてくれたところで、私は少し頭を持ち上げ、恥ずかしさに耐えながら彼の胸元へそっと唇を寄せた。
「疲れただろ? 少し眠っていいよ」
「……え?」
「少し眠るだけで違うから。三十分くらい経ったら起こしてあげる。夜明け前には帰らなきゃね」
彼は腕枕をしたまま私の頭を優しく撫で、肩へ布団を掛け直した。
「えっ! でも……まだ今泉さんが……」
「ん?……ああ、それは気にしなくていい。
俺にとって自分の絶頂は二の次だから。そんなものより、亜紀を初めて絶頂に導いてあげられたことが何より嬉しい。男にとっては、それが興奮に繋がるんだよ」
「でも……」
「焦る必要はない。今夜は無理せず、亜紀は休むといい」
彼の優しい言葉を受け止めるよりも、驚きが先に立った。
「……自分の絶頂は二の次なんて……そんな男性もいるんですね」
私は夫しか知らないが、本能的な欲求から考えても、射精をせずに性行為を終えることなどできるのだろうか。
彼は言葉を失った私を見つめ、ふっと目尻を下げた。
「挿入と射精に拘るのは若い証拠。俺も昔はそうだった。
でもね、大人のセックスの本質はもっと奥が深いんだよ、亜紀ちゃん。この先は……これからゆっくり、じっくりと教えてあげるよ」
そう言って悪戯っぽく笑った今泉さんは、戸惑いを隠しきれない私の額へ優しいキスを落とした。
この先には、もっと超えられる何かがあるのだろうか……。
「大人のセックス……」
その言葉を口にしただけで、身体の奥底にくすぐるような感覚がふわりと広がった。
「ただ普通に抱き合っているだけでは、大輪の花は咲かない。……夫への復讐にはならない。
女の快感の開発は、男の快感の開発でもある。
きっと、その意味が解る時が来るよ……」
今泉さんは再び私を抱き寄せた。
強くて優しい温もりが、私の心と体を包み込む。
「セックスの主役は女性。自分の腕の中で、どんな美しい表情や声を引き出せるのか……男はただのサポート役に過ぎない。
俺が亜紀を最高の女優にしてみせる。
ありがとう、亜紀。俺を信じてくれて……」
彼は私を抱きしめたまま、静かな声で囁いた。
蕩けるような誘い。
熱いのは身体だけじゃない。
奥底から込み上げてくる熱に、心まで溺れてしまいそうになる。
「今泉さん……」
私は彼の広い胸へそっと口づけを落とし、抱きしめられる力強さを心地よく感じながら瞼を閉じた。
彼の鼓動が、温かな音色を奏でる。
私……
本当に今泉さんに抱かれたんだ……。
最後の一線は超えられなかった。
けれど、今の私にはこれが精一杯なのかもしれない……。
体験したことのない、大きな緊張感からの解放。
彼と一つになれなかったことに、ほっとしたような……
でも、淋しいような……
自分でも整理のつかない、複雑な気持ちだった。
髪を優しく撫でる彼の指が、まるで子守唄を唄うように私を包む。
その複雑な感情の奥には、否定できない確かな幸福感があった。
不埒な関係でもいい。
不純な動機でもいい。
目の前にある温もりが欲しい……
私を抱きしめてくれる、その温もりが欲しい……。
彼の静かな呼吸が、私を深い眠りへと誘う。
きっと私は、彼の手で甘い愉悦の世界へと落ちていく――。
いつの間にか私は、彼の腕の中で静かな寝息を立てていた。
#せつない恋
Jasmine
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桃下結衣
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コメント
1件
うわ、第72話お疲れさま!今回は本当に…心の奥まで届くエピソードだった。今泉さんの「♡♡♡の主役は女性」っていう台詞がずしんと来たし、亜紀の「初めての快感の余韻」と、まだ超えられなかった一線の間で揺れる気持ちがすごくリアルで切なかった。不埒でもいいって思える温もりの描写が、めちゃくちゃ刺さったよ…。次も楽しみにしてる!🔥