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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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雪子がびっくりして声の方を見ると、

女性のすぐ後ろに並んでいた男性が、親切に申し出てくれたようだ。


(うわっ、俳優の豊村悦司にそっくり……)


その男性の容姿は、人気俳優の豊村悦司に似ていた。

男性は財布からカードを取り出すと、雪子に差し出す。


その男性は俊だった。


俊はその時薄茶色のレンズのブラウンフレームの洒落たメガネをかけていたので、

醸し出される雰囲気が益々俳優の豊村悦司にそっくりだった。


服装は、ジーンズに白のTシャツ、その上に黄色と黒のチェックのネルシャツというラフなスタイルだ。

日に焼けた肌と、口周りに生えた無精髭が彼をとてもワイルドに見せている。

俊はそこに立っているだけで、強いオーラを発している。


雪子は驚いたまましばらく俊を見上げていたが、

老婦人と何も繋がりのない客に代金を立て替えさせる訳にはいかない。


「ありがとうございます。でも折角ですが…….」


雪子が断ろうとすると、先程怒鳴った男がまた声を荒げた。


「まだかよ? 俺急いでるんだよねー」


更にイライラした様子で文句を言う。


周りにいた客は一斉にその男を睨んだが、本人は全く動じない。


「構いませんから、これで払って下さい」


俊が再度言うと、老婦人は財布を探すのを諦めて弱々しく言った。


「すみません、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか?」

「大丈夫ですよ」


俊は老婦人に向かってにっこりと微笑むと、雪子にカードを渡した。


雪子は「すみません」と言ってからカードを受け取ると、素早く会計を済ませた。

そして老婦人に向かって言った。


「お代金は、今度私に持って来ていただければ大丈夫ですから。このレシートはこちらでお預かりしておきますので、こちらの

メモ用紙に金額を書いてお渡ししますね」


雪子は素早くポケットからメモ帳を取り出すと、金額を記入して老婦人に渡した。


その時ちょうどバイトの美香が遅れてやって来た。


「雪子さん遅くなってすみませんでしたー! 代わります!」

「ああ、美香ちゃん助かった! じゃあこちらのお客様からお願いします」


雪子はそう言って、俊の会計を美香に任せた。

そしてチラッと先程騒いでいた男性の方を見ると、

よく気が利くバイトの山本が、既に隣りのレジを開けて対応してくれている。

うるさい男が静かになったので、周りにいた客もホッとしているようだ。


この店の従業員の連携プレイは本当に素晴らしい。

困っているスタッフがいるといつも誰かが手を差し伸べてくれる。

こんな時、雪子はこのスーパーで働いて良かったと心から思った。


雪子はレジを交代すると俊に向かって言った。


「お客様同士、次にいつお会いできるかわかりませんので、お代金は私が立て替えさせていただきます。今お金を持って参りま

すので、お会計が終わりましたら出口の辺りでお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」

「わかりました」


俊はニッコリ微笑んで言った。


(笑うと更に豊村悦司にそっくり……)


雪子はその笑顔に思わず頬が赤くなってしまう。

それから美香に向かって、


「じゃああとはよろしくお願いします」


と声をかけるとレジを出た。

そして隣のレジに入っている山本に向かって、


「山本君、ありがとう、助かりました!」


とお礼を言うと、


「いえいえ、雪子さんこそ残業お疲れ様でした」


山本は爽やかな笑顔でそう言った。

二人の会話を聞いていた俊は、


(雪子?)


一瞬「あれっ?」という顔をしていたが、

その時ちょうど美香が支払い金額を伝えてきたので、俊はもう一度カード渡した。


会計を終えた俊は、老婦人から何度もお礼を言われた。

俊が「気にしないでください」と優しく言うと、老婦人はもう一度深々とお辞儀をしてから

ショッピングカートを押して店を後にした。


老婦人の後ろ姿を見送りながら、俊は言われた通り雪子を待つ。


それにしても、先程のスタッフの連携プレイは見事だったなと俊は思う。

高齢女性に優しく対応する女性パート店員、

そしてトラブルが発生すると、すぐに気転を利かせて若いアルバイトがすぐに動く。

見事なチームワークでクレーマー客を見事に抑え込んだ。


このスーパーの従業員の質が高い事を知り俊は嬉しくなった。

なぜなら、完全移住したらこれからずっと世話になる店だからだ。


その時、バックヤードへ通じる扉から雪子が走って出て来た。

少しでも俊を待たせないようにとの気遣いだろう。


「お待たせいたしました。4180円…っと、あ、ちょうどあった、良かった…ではこちらで」


雪子はレシートのコピーとお金を俊に渡した。

元のレシートは老婦人に渡す為に取っておくのだろう。

またここにも小さな心配りが見える。

俊は「ありがとう」と言ってそれを受け取る。


「困っている所を助けていただき、本当にありがとうございました」


雪子は最後に俊に向かって礼を述べた。

そして深々とお辞儀をする。


俊はこの見事な接客をするパート店員の名前を覚えておこうと思い、

雪子が顔を上げた瞬間胸元の名札を見る。

するとそこには、


『浅井』


と書かれていた。


「あっ…」


(浅井雪子?)

(いやまてよ? もしかしたら同姓同名かもしれないし……)


俊はそう思い、それ以上は何も言わなかった。


「?」

「あ、いえ……じゃあ失礼します」

「どうぞお気をつけて!」


雪子は笑顔で俊に声をかけた。

その笑顔は、なぜか俊の心に染み入るようなホッとする笑顔だった。


俊は車に戻ってからふと思う。


(もしあの老婦人が料金を払わなかったら彼女が損をするよな? 彼女は社員じゃなくてパートだろう? それなのにあの対応

ができるって……凄いな……)


俊は思わず感心してしまう。


彼女の年齢は40代後半くらいだろうか?

結婚指輪は確認しなかったが、スーパーのパートで午後5時に上がるならきっと主婦の確率が高い。


そしてあのパート店員が誰かに似ているとずっと思っていたが、

その時急に思い出した。

俊が学生時代に好きだった女優の和久井奈見に似ていたのだ。


その女優は、芸能人にしては派手なところがなく謙虚で控えめで、

どこか母性を感じさせるような優しい雰囲気に満ちていた。

先ほどのパート店員の方が少し細身だろうか?

肩まで伸びたセミロングの髪、ナチュラルなイメージ、笑った時の口元もよく似ている。


今の俊の周りには決していないタイプ。

まさに癒し系で良妻賢母な雰囲気だった。


彼女があの家の『浅井雪子』なのだろうか?


その時俊は、初めて会ったスーパー店員の事をずっと考えている自分に気づき、思わず笑ってしまう。

そして一度深呼吸をすると、漸く自宅へと向かった。

51歳のシンデレラ

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コメント

1

ユーザー

そうですよ俊さん、この方が浅井雪子さん、📕を譲ってくれたステキな方なんです✨仕事も卒なくこなす和久井奈◯似の雪子さんですよ🤗俊さん一目惚れですか🤩⁉️

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