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蓮司の手が喉元に添えられる。強くはない。
ただそこにあるだけなのに、遥の胸が締めつけられる。
(ああ、これは……罰だ。
俺が“欲しがった”せいで。
俺が、日下部の声に揺れたせいで。
全部、俺のせいなんだ)
吐息が、喉の奥で詰まる。
「なあ、遥──」
蓮司の声は、どこまでも穏やかだった。
まるで教室の雑談の延長のように、平熱で響いてくる。
「日下部が、もし……おまえのこと、ほんとに好きだったら、どうする?」
遥の背筋がぴくりと跳ねた。
蓮司は気づいたのか、面白そうに唇をゆがめる。
「笑えるよな。あいつ、自分が“触れたら救える”とか思ってんの。──でも、ほんとうは、逆なんじゃないの? おまえの“触れてほしい”が、すべてを壊してきたんだろ?」
その一言が、遥の奥底を切り裂いた。
耐えていたものが、裂けた。
硬く縛られていた思考が、内側から崩れ落ちた。
遥は、顔を上げた。
「──やめろよ……っ」
声が震える。
喉が焼けるように熱い。
「言うな……そんなこと。おまえに、言われたくない……っ」
蓮司は一瞬だけ、目を細めた。
だが口元は笑っている。
「でも、ほんとのことじゃん?」
遥は頭を振る。
否定しても意味がないことくらい、分かってる。
それでも振らずにいられなかった。
「俺が欲しかったから、壊れたんだろ? ……知ってるよ。
優しくされたくて、触れてほしくて、そんで、誰も救えなくて。
全部、俺が……汚して、壊したんだよ!」
涙が、止まらなかった。
でも蓮司の顔は変わらない。
優しさも、怒りも、何もない。
ただ、“反応”を楽しむ目だけが、そこにあった。
「……ああ、いい顔」
蓮司が呟いたその瞬間、遥の手が動いた。
無意識だった。
──次の刹那、何かがはじけた音がした。
張り詰めていたすべてが、崩れた。
遥は立ち尽くしたまま、呼吸ができなかった。
自分の手が震えている。
蓮司の頬が、赤く腫れている。
なのに──
「……ああ、最高だわ」
蓮司は笑っていた。
遥は、その場に崩れ落ちた。