テラーノベル
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鷹崎雪太郎@男体化するらしい
ゆ - ちゃん
足元が、ぐらりと傾いた気がした。
殴った感触が、まだ手に残っている。
頬を打つ、あの乾いた音が、耳の奥で反響していた。
目の前の蓮司は、笑っていた。
ほんの少しだけ頬を押さえながら、興味深そうにこちらを見ていた。
(……笑ってる。俺が……こんなに、壊れてるのに)
胸の奥が、きしむ。
もう限界だった。
張りつめていた皮膚の下で、何かが破裂したようだった。
「……やだ……やだ……」
低く、かすれた声が漏れる。
涙が、ぼたぼたと床に落ちた。
それでも、誰も止めてくれなかった。
当たり前だ。
ここには、自分の痛みに眉を寄せる人間なんていない。
「俺、壊してばっかだ……」
呟くように言ったその瞬間、自分の中に沈んでいた痛みが噴き出した。
「俺が……欲しがったから……っ
俺が、優しさを信じたから……!
……誰も、助けられなかったのに……っ」
肩が震え、言葉が途切れ途切れになった。
「やめときゃよかったんだよ……俺なんか……触れたいとか、思うから……っ
どうして……こんな、俺で……どうして……誰かに……」
手が、視界を覆うように顔を抱えた。
もう、何が涙で、何が唾液で、何が鼻水なのか、わからなかった。
身体の奥から、嗚咽が這い上がってくる。
泣きたくなんか、なかったのに。
(……でも、泣くしかなかった)
誰にも届かない、誰にも寄り添われない、
そんな悲鳴のような泣き声が、深夜の部屋にひびいていた。
蓮司は、何も言わなかった。
ただ黙って、立っていた。
──それが、いちばん残酷だった。
まるで、すべてが「予定調和」だったかのように。
遥が壊れるのも、泣き崩れるのも、
最初からそうなるように仕組まれていた“演出”だったように。
(……やめてくれ)
心の奥底で叫んでも、声にならなかった。
蓮司の笑みが、夜の底でゆらいでいた。
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