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窓から飛び降り、華麗に着地を決めたベルは頬に張りついた横髪を耳にかける。
ちょうど使用人が馬の手綱を引いて厩へと移動しているのが目に入った。
(なんという幸運!)
所持金ゼロで庭に降りてしまってベルは、辻馬車すら拾えない。病み上がりの身体に鞭打って街まで走る覚悟だった。
馬はポッカポッカと、大股で移動している。急がなければ、このまま視界から消えてしまいそうだ。
ベルは全速力で駆け出すと、使用人から手綱を奪って馬に跨った。
「ごめんなさい!ちょっと借ります」
「は?…… えっ、ちょ、ベル様!?」
ベルの素早い動きに、使用人は一瞬何が起こったかわからなかったようだが、自分の手から手綱が消えたことに気付いた瞬間、ぎょっとした表情でベルを呼び止めた。
しかしたベルは、既に門を通り抜けるところだった。
「……ダミアンさん、ちゃんと誤魔化してくれるかな」
風を切るように走り出した馬の手綱を強く握って、ベルは独り言つ。
ベルにとってダミアンは、カードゲームが弱くてレンブラントに下僕のように扱われるちょっと残念な人という認識だ。
そんな彼に使用人たちの対処を任せるのは、不安でしかない。せめて足止めの時間稼ぎ程度には役に立ってほしいと切に願う。
ダミアンが自分のために心を砕いてくれているのはわかっているが、彼はずっと血縁関係があることを黙っていた。その件について、ベルは根に持っている。
(まぁ今はそんなことより、無事に街に行くのが先決だ)
なにせベルが馬に乗るのは5年ぶり。正直、こうして落馬せずにいるのが不思議なくらいだ。
そんな不安を抱えているベルだが、借りた馬はとても利口で、願い通り街まで連れて行ってくれた。
***
無事に目的地に到着したベルは、馬を適当な場所に繋ぐと、てくてくと歩き出す。
「さて、フローチェさんはどこにいるか……」
ここはマクシという名の街。王都の次に大きな街で、宿場街というよりは産業がさかんなところ。
実業家のフローチェは、ここの街で大規模なドレス工房を構えている。
そこで沢山のドレスを作って、王都の店舗に卸しているのは本人から聞いているので確かな情報だ。
(やみくもに探すよりは、まずは工房にお邪魔したほうが良いな)
商談が嘘ではないなら、フローチェの最後の足取りは工房の誰かが知っているだろう。知らないなら、それはそれで捜索材料の一つとなる。
といっても、マクシの街は広い。市場も賑わっているし、宿屋も軒を連ねている。酒場も昼間っから店を開けているし、土産屋も雑貨店も営業中なので、酔っ払いや旅行者。それから浮浪者っぽい人まで歩いているので、真っすぐ歩くだけでもなかなか苦労する。
そんな中、ベルは歩く速度を上げる。大きな工房ならすぐに見つかると思ったが、なかなか見つからない。
(人に聞いた方が早いか。でも、むやみに声を掛けるのはちょっと危険か……それに、工房の名前なんて知らないし。もうっ、こんなことになるなら、ちゃんと聞いておけばよかった)
フローチェが消えて、もう既に1日以上時間経っている。焦る気持ちばかり膨れ上がって、ベルはかなり冷静さを欠いていた。
だから、後ろからバタバタとこちらに近付いてくる足音に気づけなかった。
「ベルちゃん!駄目だ!!急いで戻ろうっ」
切羽詰まった声を出して、ベルの肩を強く掴んだのは──またもやダミアンだった。
コメント
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うわあ、第81話…!ベルが馬を借りて颯爽と街へ飛び出すシーン、めっちゃカッコよかったです。病み上がりなのに「所持金ゼロで辻馬車すら拾えない」って割り切って行動する潔さが好き。しかも使用人を置き去りにするときの「ごめんなさい!ちょっと借ります」、軽やかで笑っちゃいました(笑) ダミアンがまた追ってきて「戻ろう!」って叫ぶラスト、何が起きてるのか気になって仕方ない…!この連載、展開が速くて読む手が止まらないです。